お詫びと言っては

藤村 「この度は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


吉川 「まぁ、そちらの事情もわかるから仕方がないことではあるけれども、以後気をつけていただければと思います。この件はこれで手打ちということで」


藤村 「それでですね、お詫びと言っては何なんですが、詩を書いてきました」


吉川 「詩を。どういう意味ですか?」


藤村 「お詫びと言っては何なんですが」


吉川 「それで、詩? 一体どういう?」


藤村 「謝られて、謝られて、もっと謝られて、許したとき、見上げると満天の星」


吉川 「……あ、終わり?」


藤村 「これは満天と百点満点の満点を掛けまして」


吉川 「いや、なに? え。これが何?」


藤村 「お詫びと言っては何なんですが」


吉川 「本当に何なのが出てくることってあるんだ。何だなぁ、その詩は」


藤村 「よろしいですか?」


吉川 「よろしいというか、別に謝罪は受け取るってことで話は終わったけど? なんか変な追撃入れてきてない?」


藤村 「心を込めて書きました。お受け取りください」


吉川 「この色紙を? どういう気持ちで受け取るものなの? 初めてのパターン過ぎて正解がわからない」


藤村 「もしご満足いただけてないのなら、お詫びと言っては何なんですが、こちらヤマザキ春のパン祭りの26点まで集めたシートもおつけします」


吉川 「春の? もう終わっちゃってない? これなんなの?」


藤村 「30点集めれば白い頑丈な皿と交換できます」


吉川 「終わってるんだよね? 26点で。来年とかに使えるの?」


藤村 「いいえ、パン祭りはそんな甘いもんじゃありません。これはもう本当に気持ちなんで」


吉川 「気持ちってなんだよ。実用じゃないことを気持ちという言葉で誤魔化すなよ」


藤村 「やっぱり使えるものの方がいいですか?」


吉川 「そりゃそうだろ。いや、別に何か強請ってるわけじゃないよ? そっちが勝手にくれようとするから」


藤村 「お詫びと言っては何なんですが、これうちの娘が父の日にくれた肩たたき券で、ずっと有効なんで」


吉川 「もらえないだろ! それをもらってどうするんだよ」


藤村 「肩の凝った時にでも使っていただければ」


吉川 「使えるわけないだろ! それこそ気持ちの塊だろ。実際にマッサージが必要で使うものじゃないんだよ。気持ちのみで成立してるものなんだから。だいたい娘さんの立場で考えてみろよ、知らないおじさんがパパにあげた肩たたき券持って肩叩けって言ってきたら怖いだろ」


藤村 「娘は優しい子なんで、パパの思いを汲んで辛抱してくれるはずです」


吉川 「こっちが悪者扱いになってる!? 別に無理に奪い取ったわけでもないのに」


藤村 「でもこれだけお詫びの思いがあるということを伝えたいので」


吉川 「伝わってるよ。大丈夫です。もう十分です」


藤村 「詩で大丈夫でした?」


吉川 「それはちょっとお詫びと言っては何だったけども。でもそうやって伝えようとしてくれたことはわかりましたから」


藤村 「そうだ。お詫びと言っては何なんですが、これうちの母が作った豚汁がありましてね」


吉川 「重いもの出てきたな。お詫びと言っては何なんですが、で家族を引き合いに出すのやめようよ。家族には何の罪もないんだから」


藤村 「でも母はすごく作りたがるので。これも持っていきなさいって」


吉川 「あ、そう。親孝行しなさいね。いいお母さんだよ。お詫びのために作ってくれたの?」


藤村 「いえ、ただ家族はもう飽き飽きしてるんで全然減らないから」


吉川 「そういう言い方するなよ。そういってるうちが華なんだから。じゃあそれはいただきますよ。……うん」


藤村 「ね、特に美味しくもないでしょ?」


吉川 「まぁ、すごく美味しいというわけではないね」


藤村 「豚汁なんてだいたい美味しいものなのに、特に美味しくもないんですよ」


吉川 「そうだね。豚汁で首かしげたの人生で初かも」


藤村 「何でしょ?」


吉川 「何でしょ、って聞き方しないでよ。お詫びと言っては何なんですがって、別に何という感情を求めてるわけじゃないんだよ!」



暗転

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