一緒

藤村 「先輩と一緒にしないでくださいよ!」


吉川 「なんだよ、藤村。だいぶ凹んでるな」


藤村 「だって正直このままやっていけるのかなって」


吉川 「プロの洗礼なんてこんなもんじゃないぞ。心配するな、今は自分を信じられなくても、お前を選んだチームのことを信じろ」


藤村 「そう言われても」


吉川 「思い出すなぁ、俺もそうだったよ。初めてプロ入りして、全然結果が出なかった。しょうがないから酒に逃げたりしてさ。生活も荒んでいったよ」


藤村 「先輩が?」


吉川 「あぁ、でも当然それじゃ結果はついてこない。実際プロってのはさ、自分で自分を奮い立たせられないやつは向いてないんだよ」


藤村 「はい」


吉川 「それに気づいたってだけでも、収穫だったな。もしあの時期がなくて上手くいってたら今の俺はなかったかもしれない」


藤村 「でも俺は先輩とは違うんです」


吉川 「そうやって悩んでいくことが糧になると思った方がいい。プロなんてどんな立場になっても安泰というものはないんだから。常に悩み続けなきゃいけないもんだ。俺だってそうだよ」


藤村 「だから先輩と一緒にしないでください」


吉川 「たしかに俺とお前は違うし、チームメイトと言えどある種ライバルでもあるわけだ。悩むのは大事だけど悩みすぎてもよくない。適度に気を抜かないと保たないぞ。そういうところを管理するのもプロの仕事の一つだから」


藤村 「でも俺、先輩みたいにだけはなりたくないんです!」


吉川 「え……。あ、そうなの? だけは? そんな強めに?」


藤村 「正直、先輩の年でそのキャリアなら俺なら恥ずかしくて生きてられません!」


吉川 「そんな言い方なくない? これでもプロとして長年やってきてるんだけど」


藤村 「そんなダラダラとしがみつくような生き様どうしてできるんですか?」


吉川 「どうしてって、頑張ってきた結果が今なんだけど。じゃなに? さっき俺が言ったこと全然響いてなかった?」


藤村 「いえ、響きました。絶対にそうはなりたくないと」


吉川 「あー、反面教師として? そういうつもりじゃなかったけど」


藤村 「こいつスゲェ偉そうなこと言うな、とは思いました」


吉川 「そういう気持ちで聞いてたの? ショック」


藤村 「どうやったら、先輩みたいにならずにすみますか?」


吉川 「それを直で俺に聞くの? どういうメンタルしてる?」


藤村 「周りからもよく言われるんです、先輩とタイプが似てると。絶対に一緒にされたくない!」


吉川 「絶対に。そんな強い決意で。でも一緒にはならないと思うけどね。それぞれ違う人間だから」


藤村 「だとしても! こんなやつと一緒にされたくない!」


吉川 「こんなやつ。ついにそこまで言ったか。先輩っていう立ててる素振りもなくなった」


藤村 「いっそのこと消え去って欲しい。目の上の人面瘡みたいなものです」


吉川 「目の上の。たんこぶですらないんだ。逆にそれは何? ライバルとして意識してるってことなのかな」


藤村 「目の上の人面瘡が視界に入りますか?」


吉川 「あ、眼中にもないってこと? そんなこと言われて俺が傷つくとか考えないの?」


藤村 「プロなら自分でメンタルのケアもしなきゃいけないって言ったじゃないですか」


吉川 「言ったよ? 言ったけど、そんなド正面からメンタル攻撃が来ると思ってなかったから。それをケアするとしたらもう俺はお前に関わらないようにするしかない」


藤村 「そんなこと言わないで、たまにこうやって発散させてくださいよ!」


吉川 「サンドバッグになれってこと? それ俺は受けなきゃいけない義理はないんだけど」


藤村 「先輩なのに?」


吉川 「先輩の使い方として斬新だな。力になれればと思ったけど、こういうのは想定してなかった」


藤村 「とにかくもう一緒にされたくないという思いだけで頑張ります」


吉川 「お、おう。頑張れ、でいいのかな? じゃあここ支払いは……」


藤村 「あ、一緒で。ゴチです!」


吉川 「そこは一緒にされたくなくながれよ!」



暗転

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