マッスル将棋

藤村 「将棋の藤井聡太くん強いよなぁ」


吉川 「強いね。この間まで子供だと思ってたのに、もう今や最強だからね」


藤村 「それで俺が藤井聡太くんに将棋で勝つためにはどうすればいいのか考えたんだよ」


吉川 「考えたの? 別に勝たなくていいのに。世界中でほとんどの人が勝てないんだよ?」


藤村 「やっぱりさ、立ちはだかる大きな壁でありたいじゃん?」


吉川 「別にお前は将棋関係者じゃないし知り合いでもないだろ。全然関係ないところに立ってる壁だから立ちはだかってても眼中にないと思うよ」


藤村 「でも特殊ルールを追加することによって将棋で藤井聡太さんに勝てるんじゃないかという」


吉川 「特殊ルール? 飛車角落ちとかじゃなくて?」


藤村 「そういうハンデ無しで。時間も無制限で」


吉川 「駒落ち無しで? 毒を盛るとかそういうのじゃないの?」


藤村 「全然違う。将棋の部分には一切手を付けず、盤外戦でもない。ただ駒を動かす際に筋トレをするというだけ」


吉川 「筋トレをする? 今のところまったくピンときてない」


藤村 「例えば歩を動かす際、スクワットを1回する」


吉川 「なるほど。スクワットを。1回ならまぁできるな。何回もやると辛くなるってこと?」


藤村 「さらに香車、桂馬は動かすごとにスクワット5回。ただ香車はどれだけ進んでも一手で5回」


吉川 「おおー。なるほど? 歩はコストが安いってことか」


藤村 「さらに金将、銀将は一手ごとにスクワット10回」


吉川 「だんだんコストが重くなってきたな」


藤村 「そして飛車。これは動いたマスかける腕立て5回」


吉川 「動いたマスの数かぁ。5マスなら25回ってこと。25回結構きついよ?」


藤村 「角行は動いたマスかける腹筋5回」


吉川 「全身運動になってきた」


藤村 「そして王将に至っては一手ごとに懸垂1回」


吉川 「懸垂かぁ。できない人はできないからな。1回と言えども」


藤村 「さらに取った駒を張る際にはマウンテンクライマーを10回」


吉川 「マウンテンクライマー。あの四つん這いになって左右の太ももを上げるやつ?」


藤村 「そう。倒れた状態で自転車漕ぐみたいな運動」


吉川 「あれを10回か。駒が成ったら?」


藤村 「成ったら運動量は全部2倍になる」


吉川 「2倍か。飛車角とんでもないことになるな。相対的に歩の価値がすごく高くなる」


藤村 「これで俺は藤井聡太くんに挑む」


吉川 「でもこれお前の将棋力は全然上がったわけじゃないよな」


藤村 「そう。ただ藤井聡太くん、そんなに運動が得意そうには見えない。そこを突く」


吉川 「いや、意外と将棋もトップだと体力勝負になるって言うから、やれるんじゃない?」


藤村 「でも俺はこのマッスル将棋に最適化してるから。常に将棋をやる時はこの筋トレの意識でやってる」


吉川 「将棋と関係ないのに」


藤村 「関係は大アリだよ! まずコスト感覚がないと序盤に体力を使いすぎて終盤逃げ切れなくなる。特に王将は常に動ける体力を温存しておかないと、手が思いついても身体がついて行かなくて負けることになる」


吉川 「それで負けることあるんだ?」


藤村 「当然。運動ができなければ駒を動かせずに終わる。そして終始座りっぱなしの棋士は下半身が弱いだろうからそこを重点的に強化するプログラムにした」


吉川 「ジムのトレーナーみたいなことを言ってる。これ飛車角はきついな」


藤村 「振り飛車にしたらいきなり腕立て25回だから。基本的に居飛車になるし、角交換でも駒の交換ではなく運動量のコストで考えてしまうから迂闊なことはできない。これによってゲーム性は更に深まる」


吉川 「深まってるのか」


藤村 「囲いなんかはただ体力を消耗するだけだから、基本的にぶちかまして殴り合うという泥沼みたいな将棋になる」


吉川 「それでも藤井聡太くんは強いと思うよ?」


藤村 「こっちはハナから将棋で戦ってない。体力切れで勝つためにねっとりと受け続ける」


吉川 「それは将棋で勝ったと言えるの?」


藤村 「持ち時間がなくなり切れ負けで勝負が決まるのも将棋のルールだろ、体力切れだって同じだ」


吉川 「なんか今調べたら、藤井聡太くん筋トレもしてるらしいよ?」


藤村 「え……。ひょっとして俺の対策で?」


吉川 「お前の対策ではないと思う。そのマッスル将棋の概念は初めて聞いたし」


藤村 「こうなったら次の一手、大食い将棋の特殊ルールに着手するか」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る