気づいた

吉川 「本当だ! 序盤のあれが伏線になってたのかー!」


藤村 「そうなんだよ。よく見るとちゃんと描いてある」


吉川 「すげー! そんな前から伏線仕込んでたんだ。恐ろしい作者だな」


藤村 「でも、それに気づいた俺ってすごくない?」


吉川 「確かに。よく気づいたな」


藤村 「すごいよな、俺。よく気づいたわ」


吉川 「言われなかったら俺は一生気づかなかっっと思う」


藤村 「だろ? 結局こういうのって気づけるかどうかが大事なの。それによって面白さが何倍も違うんだから」


吉川 「うん。確かに教えてもらってよかった」


藤村 「正直この伏線わからずに読むとかもう意味ないからね。何も作品から受け取れてないってことだから」


吉川 「ん。まぁ、そこまでじゃないんじゃない? 知らなくても面白いことは面白いし」


藤村 「いや、全然違うよ。この伏線がなければ凡作だから。その程度で面白いとか言ってるやつはレベルが低すぎる」


吉川 「凡作ではないだろ」


藤村 「凡作じゃないよ? この伏線があるからね。俺はちゃんと気づいたから評価するけど、気づかなかったやつが面白いとか言ってるのは鼻から蕎麦食って美味いって言ってるようなものだから」


吉川 「そこまでじゃなくない? 伏線以外の要素もちゃんと面白いから」


藤村 「それはもう伏線の面白さを倍増させるためのギミックでしかないんだよ。この伏線こそが面白さの核なんだから」


吉川 「それは違う気がするけど」


藤村 「気づかなかった側だからそう思うんだね。もう俺みたいに気づいた側の人間は、そういう評価できない。一回チャーシュー麺食べたら元のラーメンには戻れないよ」


吉川 「そこは別に戻れるだろ。チャーシューに支配され過ぎじゃない?」


藤村 「だからこそこの伏線に気づくかどうかが大事なの。これに気づいた俺ってすごいんだよ。伏線ってのはさ、気づかれて初めて価値が出るものなんだよ。気づかれない伏線なんて存在しないことと一緒なんだから」


吉川 「だけど伏線だけが作品の良さではないってことだろ」


藤村 「いや、違うね。この伏線に気づいた俺。もはや作品を救ったと言ってもいい。俺が気づかなければこの作品は泥に塗れたゴミクズだよ」


吉川 「違うよ。それは違う。そんなわけはない」


藤村 「俺が気づかなければ作者だって描いた意味がないし。ってことは作者の創作意欲に最も影響を与えたのは俺ってことにもなる」


吉川 「ならない」


藤村 「俺がいなければこの作品は生まれなかったんだよ?」


吉川 「いや、生まれてたよ。あとから読んでゴチャゴチャ言ってるだけのやつが何言ってるんだ」


藤村 「作者なんて結局描いてるだけじゃん? でも俺はその伏線に気づいてるんだよ?」


吉川 「なんで作者を越えようとしてるんだよ。作者は気づかれるように描いてるんだよ。お前はその才能に便乗してるだけだろ」


藤村 「でもお前は気づかなかったわけだろ? 多分世界でも俺しか気づいてない」


吉川 「そんなことないよ。少なくとも作者とか編集は知ってるだろ」


藤村 「俺レベルの気づきではない。俺は伏線を真芯で捉えたから。もうこの作品は俺の気づきなしでは成立しない!」


吉川 「そんな自分ばっかりアピールするなよ。作品に対する敬意が足りないよ。まずは作品だろ」


藤村 「でもすごいのは俺だろうが!」


吉川 「お前は他人を蹴落としてまですごいって言われたいのか?」


藤村 「だって俺が気づかなければ!」


吉川 「別にお前は伏線に気づくやつだからすごいわけじゃないよ。いいやつだし。そんなもんなくてもお前の価値は下がらないぞ?」


藤村 「でも! でも!」


吉川 「どうした、寂しかったのか? 認められなくて辛かったんだな?」


藤村 「俺は……そうだ。寂しかったんだ」


吉川 「そこに気づいた俺ってすごくね?」



暗転

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