終末

藤村 「しかしこの先二人きりとなると、考えなきゃいけないこともある」


吉川 「まずは水と食料の確保だな」


藤村 「それもだが、まず俺たち二人がよく話し合わないと」


吉川 「確かに」


藤村 「二人しかいない世界で諍いなんて起こしたら救いようがない」


吉川 「大丈夫、どこかに生きてる人間はいるさ」


藤村 「だとしてもだ。現状俺たち二人が身も心も一体にならないと、過酷なこの世界で生き延びることなんてできないぞ」


吉川 「そうだな、意見が合わないとなったら問題だ。なんでも話し合って協力するようにしよう」


藤村 「そもそもどこまでできる?」


吉川 「なにが?」


藤村 「手を繋ぐくらいはできるだろ、ハグもまぁいける。さてその先だ」


吉川 「なんで? そんな状況にはならないだろ」


藤村 「ハグはいけるだろ?」


吉川 「いや、ハグはいけるけど。しなくていいなら、しなくてよくない?」


藤村 「いけるな。その先だけど、キ、キ、キ、キスは?」


吉川 「スゲェどもってんじゃん。なんだよ。やだよ、なんでキスしなきゃいけないんだよ」


藤村 「そんなことは俺だってわかってるんだよ! 俺だって嫌だよ。むしろ俺の方こそゴメンだよ! ふざけんなよ? どんなにお前がキスしたくなっても絶対に嫌だからな!」


吉川 「ならないよ、何を言い出してるの?」


藤村 「あぁん? そもそもなんでお前に嫌とか言われなきゃいけないわけ? 二人しかいない世界でさ。我慢してるのは自分だけだと思うなよ?」


吉川 「思ってないっていうか、なんで急に怒り出してるんだよ? わけのわからない仮定を持ち出してキレるなよ」


藤村 「だから! 俺の方が我慢してるっての! どうしてそんな傷つけるようなこと言えるわけ? 相手の気持ちとか考えたことないの?」


吉川 「何の話? こんなくだらないことで争いたくないんだけど」


藤村 「お前にだけ断る権利があると思うなよ? 俺にだってあるんだから。俺の気持ちを蔑ろにするな」


吉川 「断ったから怒ってるの?」


藤村 「違う! 俺も断る! ってか俺の方が断るから!」


吉川 「自分より先に断られたから? 先に俺が聞けばよかったんだ? キスしていいか」


藤村 「嫌だよ? 嫌だけど、そこまでいうなら……」


吉川 「そこまで別に言ってないよ。先に断った俺が悪かったよ。お前だって当然嫌だもんな」


藤村 「嫌っていうか、状況次第だから」


吉川 「状況次第でアリになっちゃうのも怖いな。じゃあ間を取ってほっぺにチューは?」


藤村 「えー、どうしよう?」


吉川 「マジで悩むなよ、そんなどうでもいいこと。この人っ子一人いない世界でそんなことで悩めるメンタルどうなってるの?」


藤村 「ほっぺにチューはまぁいいよ。しかたな。お互い様だから」


吉川 「別にお互い様じゃないけどな」


藤村 「他には?」


吉川 「俺が聞かなきゃいけないの? 特にないんだけど、二人でやらなきゃいけないこと」


藤村 「あるだろ! だってこの世界で生き抜くためには、あらゆることを二人のうちどっちかがしなきゃいけないんだぞ?」


吉川 「そのあらゆることにほっぺにチュー含まれてるのがなぁ。じゃあゴミ当番とか決める?」


藤村 「そういうことじゃないだろ」


吉川 「そういうことじゃないの!? ほっぺにチューはそういうことなのに、ゴミはそういうことじゃないの?」


藤村 「そういうのはお互いに協力してやってかなきゃいけないことだから。ほら、寝付けない時にトントンしてくれるやつとかは?」


吉川 「赤ちゃんかよ。確かに不安やストレスで眠れない時もあるかも知れないけど。トントンありかなしか決める必要ある?」


藤村 「嫌なの?」


吉川 「嫌っていうかさ。必要性を感じない」


藤村 「あぁん? それを言ったらもう、なんの必要性も感じないよ! お前がいる必要性だって! こんな世界で生きる必要性だってないだろうが!」


吉川 「また急にキレる! 寝る時トントンでそこまでキレられるものなの?」


藤村 「もしお前が200時間眠らなかったとしてもトントンしてやらねえからな!」


吉川 「死んでるよ、それはもう。トントンで好転するような状況じゃないから」


藤村 「なんでお前はいつもそうなんだよ? お願いしますの一言がどうして言えない」


吉川 「言うべきだった? 寝付けない時にトントンお願いしますって。大人なのに」


藤村 「二人しかいないんだから思いやりを持てって話だよ」


吉川 「面倒くさいな。じゃあお互いの誕生日とかってどうする?」


藤村 「えー、どうしよう!? それ今言わないほうが良くない?」


吉川 「全然危機感がないな。ちょっと楽しんですらいる」


藤村 「あー、でも欲しいものとかわからないから。なんかある?」


吉川 「水と食料」



暗転

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