番組

藤村 「それが例年の1.8倍の数値にまでなっているのです」


吉川 「えぇ!? そうなんですか?」


藤村 「……え、吉川さん。大丈夫ですか?」


吉川 「はい? なにがでしょう」


藤村 「あの、この話題は先程打ち合わせでやりましたけど」


吉川 「え、ええ」


藤村 「なんか今初めて聞いたみたいな感じだったので、ひょっとして記憶障害とかそういうものなのでは?」


吉川 「いや、違います。大丈夫です」


藤村 「心配なんですけど。ちゃんと打ち合わせで言ったことは覚えてます?」


吉川 「……はい。覚えてます」


藤村 「覚えてらっしゃるんですね? 数値の方もお伝えしたと思いますが」


吉川 「はい。聞きました」


藤村 「では、なんであんなにビックリしたんですか?」


吉川 「いや、その。なんというか。改めて驚いたというか」


藤村 「改めて驚く? 驚きに改まることってあります? 昔のことならいざ知らず、さっきの今ですよ?」


吉川 「そうではあるんですけど。番組的にも、ちょっとそういう雰囲気を出そうかなと思いまして」


藤村 「雰囲気を?」


吉川 「なんと言いますか。視聴者の代弁と言うか。見てる方も皆さん驚いてると思われたので」


藤村 「いえ、でもあなたは知ってたじゃないですか」


吉川 「そうなんです。そうですけど、そういうことってあるじゃないですか? 番組として」


藤村 「そういうこと?」


吉川 「すみません。ちょっとメディアのやり方に酔ってしまった部分がありました」


藤村 「つまり吉川さんは、本当は進行をすべて理解しているのに、わからない振りで視聴者を欺いていたというわけですか?」


吉川 「いえ、あの。欺いたという気持ちではないです。結果的にその演じてしまっていた部分はなくもないのですが、騙そうとかそういうことではなくてですね」


藤村 「大げさに誇張してリアクションしたというわけですか?」


吉川 「そう言われちゃうと、確かにそういう部分はあるのですが。でも実際に初めて聞いたときは驚いたんですよ。その驚きを再現したといいますか」


藤村 「再現する必要あります? 二度目なのに?」


吉川 「視聴者の方は初めての情報だと思ったので」


藤村 「でもあなたは違いますよね?」


吉川 「……はい。違います」


藤村 「そんなことしなくてもいいんです。嘘を演じなくても大丈夫なんですよ?」


吉川 「演じなくてもというか。何ていうかな、そっちの方がより伝わるんじゃないかと思ったんです。情報を伝えるという部分でやっぱり感情や臨場感を高めたほうが、見てる方にも伝わるんじゃないかと」


藤村 「つまり視聴者はバカだから、バカにわかるように誇張して伝えたということですか」


吉川 「違います。そういう風には考えてません」


藤村 「いや、だってそうとでも考えないとおかしいじゃないですか。バカな視聴者のために、我々すべてを知りし者が下のレベルにまで降りて共感してみせましょう。と思ったわけですね?」


吉川 「ちょっとそんな言い方ないじゃないですか。幅広い視聴者の方にお届けできるようにと考えて」


藤村 「その幅の中ではどのあたりまでバカなんですか? 8割くらいはバカを想定してます?」


吉川 「そんなにはいないと思います」


藤村 「それより少ないけどもかなりいるわけですね。やっぱりどうしようもないバカが。そこに伝えなきゃならないから」


吉川 「いえ、あの。バカとかバカじゃないではなくてですね、忙しくてあまり集中して番組を見れない方に対しても耳に留まるような形でと考えまして」


藤村 「なるほど。話を聞きもしないバカでもわかるように」


吉川 「バカって決めつけるのはよくないですよ。視聴者の方々はそれぞれ色々な事情を抱えていたりするんです。それに対して私どもはなるべく伝わりやすくと考えてやっておりましたが、その過程で行き過ぎた表現をしてしまったかも知れません」


藤村 「私はね、吉川さん。この番組の視聴者は賢者しかいないと思ってます」


吉川 「け、賢者ですか?」


藤村 「そうです。バカなんてとんでもない。皆さん賢者です。そういう方たちが我々のやり取りを見守ってくれてるんです」


吉川 「賢者。そうですか。そうかもしれません」


藤村 「では次週もボインボインちゃんねる。肌色丸ごとピーチパイでお会いしましょう。お股来週~!」


吉川 「賢者……」



暗転

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