捜査

吉川 「以上が本件で今のとこわかっていることですが、何か疑問はありますか?」


警部 「いや、結構。ところで、例の者はまだかな?」


吉川 「例の? なんでしょう? 一応関係者には話と連絡先を聞いて帰しましたが」


警部 「関係者はどうでもいいんだよ。いるだろ、好奇心旺盛な女子大生が」


吉川 「どういうことです?」


警部 「キミ、事件を担当するのは初めてかね?」


吉川 「いいえ。今年に入ってからも4件やっておりますが」


警部 「ならわかるだろ。こういう時には好奇心旺盛な女子大生が首を突っ込んでくるものじゃないのかね?」


吉川 「どういう意味ですか?」


警部 「カァー! これがジェネレーションギャップか。捜査にはつきものだろ。好奇心旺盛な女子大生は」


吉川 「部外者がですか?」


警部 「好奇心旺盛な女子大生は部外者ではあるけど、なんかなぁなぁで認められてるものだろ。なんでも杓子定規にやればいいというわけじゃないよ、キミ」


吉川 「いえ、そのような例は聞いたことありませんが」


警部 「聞いたことない? 世も末だな。好奇心旺盛な女子大生が私のことを『おじさん』とか言うわけだよ。『いや、これでも若いって言われるんだが?』みたいなちょっとウザいなって感じさせる踏み込んだやり取りからはじまるやつ」


吉川 「事件とは関係ないですよね?」


警部 「事件と関係なくても捜査と関係あるんだよ! モチベーションが違うだろ!」


吉川 「もし好奇心旺盛な女子大生がいたとしても捜査上のことは何も教えられませんよ?」


警部 「そこをなんか好奇心旺盛な女子大生特有のコミュ力で突破されるからおじさん困っちゃうんだろ?」


吉川 「突破されないでくださいよ。何年警察にいるんですか」


警部 「すごいんだから、好奇心旺盛な女子大生は。こっちが何も聞き出せなかった関係者の懐にスルッと入って意外な事実を拾ってきたりするんだから」


吉川 「何の話ですか? 架空?」


警部 「それだけじゃない。これだけネイルをしているのに缶の飲み物を買うのは不自然ですね。プルトップが開けられないので普通はペットボトルを買うと思います。みたいな若者目線の推理なんかしたりするんだから」


吉川 「そのくらいは私でもわかりますけど」


警部 「わからないんだよ! ブラのサイズとか、こっちがわからない分野のこと教えてくれるんだから。Eカップだから背中のホックの数がやたら多いとか」


吉川 「知ってるじゃないですか」


警部 「これは個人的に知ってるだけだよ!」


吉川 「なんで個人的に知ってるんですか?」


警部 「お前なんだ? それが今回の事件と関係ある話か?」


吉川 「好奇心旺盛な女子大生も関係がないと思いますが」


警部 「全然知らない? なんかちょっと深入りしすぎちゃって犯人から狙われてピンチになったところで私が助けたりとか?」


吉川 「だから民間人を関わらせてはいけないのですよ」


警部 「しょうがないだろ! 好奇心旺盛な女子大生なんだから」


吉川 「余計にそんな人を近づけないでくださいよ。警察全体の問題になりますよ?」


警部 「何もわかっちゃいない! 最近は少子化だし、ジェンダーとか様々な問題が湧き出てるんだよ。もはや好奇心旺盛な女子大生は絶滅危惧種だよ? 率先して保護してちゃんと育んでいかないと、警察組織そのものが危ぶまれるぞ?」


吉川 「警察組織はそんなものに依存してないですよ。何を言ってるんですか」


警部 「本当に知らないの? 見たことない、ドラマとかで?」


吉川 「ないです」


警部 「よくそれで事件を担当しようと思ったな」


吉川 「事件を担当するのは仕事だからですよ。なんですか、ドラマに出てくるんですか?」


警部 「出てくるよ。それで最後にまったく振り回されっぱなしだったなんて言うと、好奇心旺盛な女子大生が『でも一回くらいはデートしてあげてもいいかも。おじさん!』みたいなことを言って、やれやれってなるんだよ。そうしないと本当に事件が解決したとは言えないぞ?」


吉川 「事件とは全然関係ないでしょ」


警部 「まったく融通の効かないやつだな」


吉川 「そっちこそ頭が堅いんですよ。行きますよ、おじさん!」


警部 「え……。そういうのもアリなのか?」



暗転

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