職業体験

藤村 「これから皆さんは社会に出ていくこととなります。その前に自分にとってどんな職業が向いているのか、いくつか職業体験をしていただきたいと思います」


吉川 「よろしくお願いします」


藤村 「あまり知られていない職業、思っても見なかった職業が意外と自分にあっているということもあります。また憧れていた職業であっても毎日毎日続けるとなると理想とのギャップに悩むこともあります。この職業体験ではむしろそういった違和感などを大いに感じて今まで知らなかった自分自身の適正に気づいてください」


吉川 「楽しみだなぁ」


藤村 「ではまず迷惑系ユーチューバーを体験してもらいましょう」


吉川 「迷惑系!? え、それって職業なんですか?」


藤村 「キミ、職業に貴賎なしという言葉があります。どんな仕事でも決してバカにしていいものじゃない。社会にとって必要なものなのですから」


吉川 「必要……ですか? 迷惑系ユーチューバーが? いない方がよくないですか?」


藤村 「ああいう職業の方が上げる動画を見ることでバカたちが時間を使ってくれるのです。もしそういうものがなければバカのことだから余計なことをするに違いません。ゴミ箱は目立つ方がいい」


吉川 「言い方ひどい。職業に貴賎なしとか言ってたのに、バカはバカで切り捨てるんだ」


藤村 「では手始めに炎上してみましょうか」


吉川 「手始めに炎上したくないな! そんなライトな感覚で」


藤村 「なんか公務員とか反撃できない相手に対して挑発してみましょう」


吉川 「絶対にやりたくない。もうその職業はいいです。適性がないから」


藤村 「そうですか? あってそうな顔してますけどね」


吉川 「それも失礼だな」


藤村 「じゃあ次はギャル系アパレル店員を体験してもらいましょう」


吉川 「ギャル系? ギャル系に限定なの?」


藤村 「やっぱり販売などのサービス業を経験しておくと良いですから。最近はカスタマーハラスメントなんて言葉もあります。客がどれだけクソか知るだけでもいい体験です」


吉川 「それはそうかもしれないけど、ギャル系じゃなくてよくないですか?」


藤村 「ギャル系だと客もそういう若い方が多いので。オジが来るともっと難易度が高くなりますよ? いいんですか、オジで?」


吉川 「オジっていうなよ。じゃやりますけど」


藤村 「じゃあこれ。薦めてみてください」


吉川 「全然わからない。こちらお似合いですよー?」


藤村 「全然ダメ。いいですか、こうです。これあーしも着てんだけど、よき。ってかそのネイルかわいくね? なんそれ、かわいくね? てか見て、あーしのも。かわいくね? それな!」


吉川 「語彙が少ない。何をどう薦めてるのかもわからない。そもそもギャルじゃないからこの仕事やらないと思います」


藤村 「じゃあ次はマナー講師です」


吉川 「なりたくないなぁ。憧れるやつが全然でてこない」


藤村 「これは営業が大事です。自分に教養のないのがコンプレックスになって、なにか権威付けを欲しがってるバカな経営者に営業をかけましょう」


吉川 「顧客をバカにしすぎでしょ。怒られるぞ」


藤村 「それで適当なマナーをでっちあげます。ティッシュペーパーには実は表と裏があって、真ん中の折り目が谷折りの方が裏。なのでお土産のお菓子を離席してるデスクに配る時はティッシュを裏表確認してお菓子をその上に置きます」


吉川 「どうでもいい! もうむかつく。絶対にやらない」


藤村 「では次に財務省官僚」


吉川 「財務省の官僚!? それってエリートじゃない? なろうと思ってなれるやつじゃないでしょ」


藤村 「でも職業体験なので」


吉川 「体験しても今から目指せないよ」


藤村 「とりあえず増税してみてください」


吉川 「インターネットで極端な意見に感化されたやつみたいなことを言う! そんなイージーな仕事じゃないだろ」


藤村 「増税、増税、ちょっと減税からの増税。などのテクニックで国民にバレないように」


吉川 「バレるだろ。そんな仕事じゃないんだよ。偏見がひどすぎるな」


藤村 「最後に海賊王をやってみましょう」


吉川 「やってみていいものなの!? すごい一生懸命目指すやつじゃん。命がけで」


藤村 「まぁ、体験なんで」


吉川 「体験できちゃうの? それまでの冒険とかなしに? 体験したところで気に入ったから就職しようってできないだろ」


藤村 「まぁまぁ、とりあえずワンピースを見つけたリアクションをどうぞ」


吉川 「見つけちゃったんだ!? そこからやっていいの? というかそこだけやっても全然楽しくなさそうだけど」


藤村 「ほら、王様、家来たちが見守ってますよ?」


吉川 「そういう王様感ないやつだ思うんだけど。見つけた感じね? こ、これがワンピースか!?」


藤村 「あーしもそれ着てるんだけど、よき!」


吉川 「そのワンピース!?」



暗転

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