年号

藤村 「気がつけば令和も慣れたな」


吉川 「本当だ。慣れたってことを意識しないくらいに慣れてる」


藤村 「最初に聞いた時は驚いたもんな。『和』いいんだ? って。なんか勝手に前に使ったやつは除外するみたいなのを考えちゃってたじゃない?」


吉川 「してた。誰もそんなこと言ってないのに」


藤村 「そこに『和』だもんな。その手があったか、というか。ルールブックの盲点を突かれたような意外性があったよ」


吉川 「すごい昔の年号からならありかと思うけど、『和』なんて結構近めのところからきたもんな」


藤村 「次の年号で『平』とか『成』が来るくらいの感じだもん」


吉川 「それはないんじゃない? ほら、昭和はなんだかんだ言って景気の良い時もあったし、全体的に勢いもあって良い記憶って人も多いけど、平成は言っちゃ悪いけど『あの頃の輝きをもう一度』みたいなのがないじゃん」


藤村 「確かになぁ。別に誰のせいでもないけど。じゃあ次の年号なににする?」


吉川 「いや、お前が考えるの? このタイミングで?」


藤村 「別にどのタイミングでもいいだろ。考えるだけなら。天皇陛下が元気だって変わることだってあるし」


吉川 「そうか。次のって言われるとまた難しいな」


藤村 「令和の次だからさ『東令和』でいいんじゃない?」


吉川 「駅名のメソッド! 隣の東令和の方が割と発展しちゃって令和では止まらない快速が東令和では止まる、みたいなやつ!」


藤村 「それか武蔵令和」


吉川 「もうそれは浦和だよ。浦和駅、北浦和駅、南浦和駅、東浦和駅、西浦和駅、武蔵浦和駅、中浦和駅、浦和美園駅みんなあるんだから」


藤村 「令和ニュータウンとか」


吉川 「モノレールで新しく駅を作るか、みたいな発想で年号を考えるなよ。もう一旦駅から離れろよ」


藤村 「意味合いとしてさ、新しく時代を作るみたいな思いを込めたいよな」


吉川 「古いものは古いものとしていいけど、未来を見据えたって視点はありかな」


藤村 「じゃ、創業」


吉川 「ややこしい! 創業5年とかになっちゃう。創業5年創業なので創業7年です、みたいな何をどう言ってるのかわからなくなっちゃう」


藤村 「ダメか。じゃあ、勤続」


吉川 「勤続10年とかになっちゃう。あのさ、ニュアンスが創業と被ってる上に創業よりも弱いやつを後で出さないでよ。創業の方でツッコミの手数出し切っちゃってるんだから。二個段階踏んで弱いのが来たらもう受け流すことしかできないよ」


藤村 「じゃ、青空」


吉川 「普通にいいの来た! 普通にいいやつすぎて何も響かないやつ。ただ飲める真水みたいなやつ。味がない。今はもうちょっとひねりが欲しい段階なのに」


藤村 「糞紫」


吉川 「やけになってるだけ! その字はこの国に何が起きても使わないやつ。たとえ蛮族に支配されたとしてもその字だけは使わない」


藤村 「黴餅」


吉川 「それはカビの生えた餅だろ。糞じゃなきゃ通ると思った? 黴も大概ダメだよ? 糞のあとならマイルドに感じるけど、相対的にOKってもんじゃないから」


藤村 「なんかもうちょっと原点に返りたいな。平成を使うのはないと思うけど、次は『昭』の方を使うとか」


吉川 「それは二回連続でだと、依存しすぎな気がする。昭和だって別に良いことばかりの時代じゃなかったんだから」


藤村 「じゃあ明治や大正?」


吉川 「意外とありかも知れないよ? 『明』なんて希望感じるしさ。『正』はちょっとネットとかで正義に狂ってるバカを見ると今の時代別の意味合いがついちゃいそうで嫌だけど」


藤村 「それでいうとなんかちょうどいいの思いついたかも。時代を代表するような」


吉川 「出た? どんなの?」


藤村 「大谷」


吉川 「そんな全部背負わせないでくれよ!」



暗転

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