Tシャツ

藤村 「おい! なぁ、おいって!」


吉川 「な、なんですか?」


藤村 「ほら、これ!」


吉川 「え」


藤村 「Tシャツ! 一緒」


吉川 「あ、本当だ。うわぁ、一緒ですね」


藤村 「すげぇ偶然! こんなことあるんだ。え、なにお前。好きなの?」


吉川 「いや、好きっていうか」


藤村 「マジでビビった。俺かと思った。俺が向こうから来たのかと思った。ドッペルなんとかかと思った」


吉川 「ドッペルゲンガー」


藤村 「そんなんだったっけな? よくわかんないけど」


吉川 「いやでも本当に偶然ですね。じゃあ……」


藤村 「な、な、な! これ好きなの?」


吉川 「いや、好きっていうか」


藤村 「てか誰これ? なんておじさん?」


吉川 「知りません? チェ・ゲバラ」


藤村 「なに? チェゲ?」


吉川 「チェ・ゲバラです」


藤村 「そんな名前なの? チェゲハラ? どんな字書くの?」


吉川 「いや、カタカナですけど」


藤村 「ハラはハラだろ? 原っぱの原。なに原だっけ?」


吉川 「いえ、日本人じゃないんで」


藤村 「あ、日本人じゃないの? ごめん。フー・イズ・ヒム・オン・ザ・ティーシャツ?」


吉川 「私は日本人です」


藤村 「なんだよ。日本人じゃねえか! 適当なことぬかしてんじゃねえぞ」


吉川 「違います。この人が日本人じゃないんで」


藤村 「なに原とか言ってたじゃねえか。榊原だっけ?」


吉川 「チェ・ゲバラです」


藤村 「何だそれ! 何人だよ?」


吉川 「キューバ人かな」


藤村 「キューバ!? キューバってお前、どこだよそれ。そんなの聞いたことないぞ」


吉川 「ないですか。ないって言われると説明するの難しいですけど」


藤村 「九州? 九州の人ってこと?」


吉川 「違います、キューバです」


藤村 「ないよ、そんな場所」


吉川 「いや、あるんですよ。キューバって国が」


藤村 「めちゃくちゃ詳しいな。え、知り合い? この人の」


吉川 「違います。もう死んでるんで」


藤村 「え。怖っ! 俺はじゃあ何と話してるの?」


吉川 「いや、ボクは生きてます」


藤村 「なんだよテメェ! 適当なことぬかしてんじゃねえぞ」


吉川 「チェ・ゲバラがもう死んでるんで」


藤村 「嘘。ショックー! 好きだったのに。で、なんの人なの?」


吉川 「好きだったのに? 革命をした人です」


藤村 「はぁ、大貧民のやつ?」


吉川 「あの、本物の。国の」


藤村 「革命って大貧民のやつだろ? 他のあるの?」


吉川 「他にもあります。というか他のが本物の革命。政治的な」


藤村 「なんだよ? 大貧民の革命は偽物だとでも言うのか? 俺が言ってる革命は偽物だって、そう言いたいのか?」


吉川 「全然そう言いたくない。革命っていうのは政治体制が変わることをいう言葉なんです」


藤村 「全然わかんねー! そんなことできるの!?」


吉川 「大変だったと思いますよ。普通の人にはできません。だからこそ有名なんですよ」


藤村 「そのキューバって国の政治もよくわかんないな」


吉川 「それはまた複雑なんで。政治ですし、他国の情勢とかも絡んでくるから」


藤村 「言ってみればあれだろ? 日本がドラッグOKになるみたいな話だろ?」


吉川 「ま、まぁ~。大きく捉えればそんなことみたいな話です」


藤村 「スゲェおっさんじゃん。マジリスペクトだわ。着てて良かったー」


吉川 「そうですね。じゃ、私は……」


藤村 「決めた! 俺もやるわ。革命」


吉川 「えぇ……。まぁ、頑張ってみたらいいんじゃないでしょうか」


藤村 「まずTシャツになるところから始めないとな!」


吉川 「いや、Tシャツが先じゃないよ!?」



暗転

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