古武道

藤村 「古武道というのは様々な場面で対応できるんです。例えばこの技は力の弱い女性でも大男を倒すことができます」


吉川 「はぁ~、なるほどぉ。それって私でもできますか?」


藤村 「どういうことでしょうか?」


吉川 「ですから、私でも稽古を続けていればできるようになりますかね?」


藤村 「人の話を聞いてました?」


吉川 「え。聞いてたつもりですけど」


藤村 「力の弱い女性でも大男を倒すことができるんですよ?」


吉川 「はい。だから私でもできるかと」


藤村 「あなたは力の弱い女性なんですか?」


吉川 「あ。そういう? 力の弱い女性限定の技なんですか?」


藤村 「ひょっとしてあなた、自分のことを大男だと思ってます? そんなに大きくないですよ?」


吉川 「いや、大男側だとも思ってませんでした。力の弱い女性と大男の状況しか使えないんですか?」


藤村 「この技はね。逆にこの技は大男が力の弱い女性を倒す時の技で」


吉川 「それはいらないんじゃないですか? 技じゃなくていいでしょ。パワーで」


藤村 「古武道はあらゆる技があるので」


吉川 「あるかも知れないけど、その技はもう使う時点で卑怯な感じが」


藤村 「この技はローションでヌルヌルになった相手をしっかりと掴む技で」


吉川 「ローションでヌルヌルの? そんな状況になることあります?」


藤村 「あります。最近は不景気で減ったけど、お金あった時は週二で予約入れてたんで」


吉川 「何のお店の話!? あなたのプライベートでしか活用できないんじゃないの?」


藤村 「あとこの技はお昼ご飯を会社の近くで食べてたら、あんまり面識ない他部署の人と相席になっちゃって、なんにも話さないのも気まずいなぁって時に出す技で」


吉川 「技で!? 技で気まずい空気に対応するの?」


藤村 「やっぱり現代の格闘技では対応しきれない状況というのがあるわけです。古武道はあらゆる状況を想定しているので」


吉川 「そういうものなのですか。奥が深いですね」


藤村 「あとこれは出先でスマホのバッテリーが10%切った時の技で」


吉川 「スマホの!? 古武道なのに?」


藤村 「やっぱり昔の人でもエネルギー残量って結構ストレスになってるんですよ。昔は安全に寝泊まりできる場所もなかった、そんな中で休まなきゃいけなかったので」


吉川 「自分のエネルギー的な? 力尽きちゃう、みたいなのに対応した技なんだ」


藤村 「そうです。考え方は同じなので現代ではスマホなどにも使えるという」


吉川 「使えるかな? 応用効くものなの?」


藤村 「古武道ってのは様々な状況に対応できるので」


吉川 「それにしても対応できすぎだな。怖いくらい」


藤村 「そしてこの技は、なんかちょっと身体がダルいな、風邪のひき始めかな? って時に出す技で」


吉川 「もうそれは技じゃなくていいでしょ。薬飲んで安静にしてるのがいいんじゃないの?」


藤村 「そういう素人判断が一番危険なので」


吉川 「そっちも風邪に関しては素人でしょうが。なんで古武術の人が医療にも明るいのよ」


藤村 「古武道には歴史がありますから。人間が昔から風邪気味かなってのと戦ってきた証です」


吉川 「歴史関係なくない? スマホのバッテリーとか言ってるくせに」


藤村 「この技は人類が遺伝子操作によりESP能力を獲得した時に、その相手と戦うことを見越した技です」


吉川 「未来も! まだそんな状況ないのに古武道でいけるの?」


藤村 「昔からあらゆる状況を想定しているので」


吉川 「そして最後にこの技はティラノサウルスと往来でばったり会った時も先手を取って戦う技です」


吉川 「恐竜の頃は人類いないだろ。なんで古武道だけあるんだよ」


藤村 「あらゆる時代のあらゆる状況を想定してるので」


吉川 「すごい。じゃあもし今急に酔っ払いが絡んできても?」


藤村 「すぐそこに交番がありますよ」


吉川 「ないのかよ、その古武道は!」



暗転

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