ハンドサイン

藤村 「いざという時のためにハンドサインを決めておきたい」


吉川 「いざという時ってのは、具体的にどういう時のこと?」


藤村 「わかるだろ。いざだよ。いざだなって思うことない? 普段暮らしていて」


吉川 「いや、普段の生活でいざなことはないけど」


藤村 「まだもうちょっと先かな、と想定してたら急にうんこしたくなったり」


吉川 「それがいざなの? その程度で?」


藤村 「いや、だから。そのいざはいざの中では比較的下の部類よ。コモンのいざだよ」


吉川 「コモンの。カードゲームみたいな。レアよりも下のありふれてるやつ」


藤村 「例えばコンビニに買い物に行った時に急に強盗が入ってきて巻き込まれた。これはもういざだろ」


吉川 「いざだね。レアのいざだね」


藤村 「もっと上だよSRのいざだよ。強盗はないよ、あんまり」


吉川 「スーパーレアか。その時のためのハンドサイン?」


藤村 「そう。犯人にバレないように。ハンドサインでやり取りできたらこっちは優位に振る舞えるだろ」


吉川 「SRのいざの時のために練習するのって、なんかあんまり乗り気しないんだけど」


藤村 「もっとあるかも知れないだろ? 異星人が侵略してきてたり。それはもうSSRだよ。コンビニで買い物してる最中に異星人が侵略してきてビームとか撃つんだから」


吉川 「場所はコンビニなんだ。あんまり変わってない」


藤村 「コンビニじゃなくてもいいけど。ホワイトハウスとかでも。それはもうURだよ」


吉川 「ウルトラレアの。そのために練習を?」


藤村 「練習はしておいていいだろ。できるのとできないのどっちがいい? 何だってできたほうがいいんだよ。逆上がりだってできた方がいいし、タガログ語だってできた方がいい。世の中にはできないよりはできた方がいいんだよ」


吉川 「そうかなぁ? なんかありそうだけど」


藤村 「イボ以外な。イボと人面瘡以外。それ以外は全部できないよりできた方がいい」


吉川 「言いくるめてくるな。ま、いいけど。ハンドサインってどうやるの?」


藤村 「『俺』『お前』『行け』『止まれ』みたいなやつでもお互いにわかってれば十分会話になるだろ」


吉川 「なるほどなるほど。そういうのね。意外と便利かもな」


藤村 「だろ? いざって時のために使えると便利なんだよ」


吉川 「他には?」


藤村 「『おしっこ』と『うんこ』だな」


吉川 「それコモンのいざじゃん! コモンのいざのハンドサインいらないだろ」


藤村 「ちゃんと伝えとかないと『え、なんか長くない? ひょっとしてうんこかな』みたいに思われるの嫌だろ」


吉川 「コモンのいざの時はハンドサインで言わなくていいだろ。口で言っていい」


藤村 「コンビニでも?」


吉川 「コンビニでもだよ。コンビニ好きだな。なんで毎回現場がコンビニなんだ」


藤村 「ホワイトハウスでもいいけど、流石にホワイトハウスだったらハンドサインの方がよくない?」


吉川 「二箇所しかないの? お前の人生その二箇所ですべてが起きるの?」


藤村 「それでこのサインは『お前が撃たれてる間に俺は逃げるけど諦めてくれ』ね」


吉川 「嫌だよ! なんでそんなハンドサイン使われなきゃいけないんだ」


藤村 「嫌とかじゃなくて。そういう状況になったらそう伝えるしかないんだから」


吉川 「そういう状況になるなよ! 他に手はあるだろ」


藤村 「他の手はまだハンドサインで考えてないから」


吉川 「ハンドサイン優先で物事を進めるなよ! 何かの伝達のためのハンドサインでしょうが!」


藤村 「これが『その先はまだ考えてない』のハンドサイン」


吉川 「じゃあもうそれだけでいいよ!」



暗転

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