レンタル

藤村 「最近野菜高いなぁなんて思ってません?」


吉川 「思ってます。野菜以外も全部高い」


藤村 「ですよね。でも政治のせいにしたところで急に生活が楽になるわけじゃない。自分たちで知恵を絞って生きてかなきゃいけない」


吉川 「それにしても大変ですよ」


藤村 「ただご存知ないかも知れませんけども、そんな野菜の値段高騰に対して非常に便利なサービスがあるんです」


吉川 「へぇ。どういうのですか?」


藤村 「はい。レンタルレタスです」


吉川 「レンタルレタス。レンタル? レタスを?」


藤村 「あ、察しがいいですね。その通り、日本全国どちらのご家庭にもレタスをレンタルするというサービスです」


吉川 「レンタルってなんですか? それは返すの?」


藤村 「はい。レンタルですから」


吉川 「え。食べるのは?」


藤村 「食べた場合はもちろん買い取りになります」


吉川 「どういうこと? レタスをレンタルしてどうするの?」


藤村 「そこなんです! レタスをレンタルすれば、なんと一日でレタス1個分のビタミンを持つことができます」


吉川 「持つことってなんだよ!?」


藤村 「今日はレタス1個分のビタミンがうちにあるな。って思うと心も晴れやかになるじゃないですか」


吉川 「食べないの?」


藤村 「もちろん食べてもいいですよ。買い取りになりますが」


吉川 「じゃあ実質食べられないじゃん」


藤村 「でもレタスですよ? 食べます、レタスなんか?」


吉川 「おいおい。急に風向き変わったな。食べるだろ、レタスは」


藤村 「あんな美味しくないのに」


吉川 「それは個人の好みの問題だろ。美味しいと思う人だっているよ」


藤村 「いいえ。いません」


吉川 「断言するなよ! いるんだよ、きっと。どこかには」


藤村 「そりゃ殺人犯だってどこかにいるかもしれませんけど、そんな人の基準で日常を送ります?」


吉川 「それと一緒にするレベル? サラダとか。食べるでしょ」


藤村 「あれはだから『身体にいい気がする』という情報を食べてるだけで。実際に美味しくないし身体にも別によくないですよ」


吉川 「だから断言するなよ。身体にいい効果はあるだろ、なにかしら」


藤村 「レタス食べないで長生きした人なんていっぱいいるし、食べてすぐ死んだ人だっていますよ。身体にいいって言ったって誤差でしょ、そんなの」


吉川 「いや、あなたがただ単に嫌いなだけでしょ? それを一般論みたいに言わないでよ」


藤村 「嫌いとかじゃないんですよ。スタンスがおかしい野菜じゃないですか。パクチーなんかはちゃんと『嫌いな人がいるのは承知してます』というヴィランを演じる覚悟があるじゃないですか。だからこそあえて好きな人がいるのもわかる。レタスは別に何の能力もないのにヒーロー側にいるつもりでいるじゃないですか」


吉川 「レタスの思想を勝手に推測するなよ。そんなこと思ってないかもしれないだろ」


藤村 「映画になったら絶対にオミットされるキャラなのにレギュラー感出してるのが反感を買うんですよ」


吉川 「個人の感情でレタスをジャッジするなよ!」


藤村 「どうせサラダのカサ増しに使われるくらいでしょ。そんなのレンタルで十分だと思うんですよ」


吉川 「あなたが思うかどうかは勝手だけど、食べるために買ってる人もいるんだよ」


藤村 「それはなんか高いラテとかと一緒ですよ。『こういうの飲んでる私って素敵』って自分に酔うために買う、言ってみれば使い捨てのファッションアイテムなわけで。レタスだってそのために買ってるんです。それならレンタルで十分でしょ」


吉川 「どうあっても引かないな。これじゃ平行線だよ。無理だと思うよ、そのレンタル事業は」


藤村 「レタス以外にも色々取り揃えてるんですよ」


吉川 「だからレタス以外でも無理だって! 人は食べるために野菜を買ってるんだから」


藤村 「レンタルパセリもありますよ」


吉川 「それはギリ成立するか……」



暗転

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