独眼竜

吉川 「でもスキンケアはしてるよ」


藤村 「スキンケア?」


吉川 「そんな大声出すこと?」


藤村 「ス、ス、ス、スキンケアッ!?」


吉川 「うるせーな。そんな大事じゃなくて。顔洗ったあとに化粧水つけて乳液つけてるだけだよ」


藤村 「おじさんなのに?」


吉川 「おじさんでもいいだろ。おじさんでも肌ボロボロより多少潤ってたほうがマシだろ」


藤村 「いや? おじさんなんておしゃれしてもしょうがないよ」


吉川 「おしゃれとかじゃないんだよ! 別にこっちだってモテたいとか若く見られたいとかでやってるわけじゃない。ただどうしてもおじさんって清潔感がなくなるからちょっとでも周りに対する不快感を低減したいんだよ!」


藤村 「でもおじさんなんだよ?」


吉川 「いいだろ、おじさんだからこそやった方がいいくらいに思ってるよ」


藤村 「それはないよ。おじさんの顔なんて3種類くらいしかないし」


吉川 「もっとあるだろ! 全然違うよ、おじさんの多様性をなめるな!」


藤村 「そりゃお前がおじさんだから、おじさん解像度が高いだけだろ。じゃあ聞くけどお前は坂道グループの顔の区別がつくのか?」


吉川 「そりゃ、知ってる人何人かは」


藤村 「そのくらいだろ。他のは? 全員わかるの? 衣装とかじゃなくて普通に街で会って」


吉川 「そこまではわからないけどさ」


藤村 「だいたい一緒に見えるだろ。若くて可愛い子って感じで」


吉川 「一緒ではないけども」


藤村 「何人かわかるってのはそれなりに解像度があるわけだ。でもそんなお前ですら数人ってところだろ? 世間の人がおじさんの顔のタイプの判別がつくと思うか?」


吉川 「そう言われると……」


藤村 「まだ若くて可愛い子の方が区別はつくだろうよ。おじさんだぞ? あんまり直視もしたくないだろ。だいたい世間の人にとってはおじさんの顔なんて3種類くらいなんだよ」


吉川 「マジかよ」


藤村 「そう。デブか、痩せてるか、独眼竜か」


吉川 「独眼竜!? 独眼竜がそこにランクインするの?」


藤村 「わかりやすく3種類くらいしか区別つかないから。そんなもんだよ」


吉川 「独眼竜で一つのタイプを形成しちゃってるの? いる? 独眼竜のおじさん。まだ会ったことないけど」


藤村 「でも会ったら『あ、独眼竜だ!』って思うだろ」


吉川 「確かに。独眼竜はもう太ってるとか痩せてるとかよりも先に来ちゃうな」


藤村 「あとは髪型も。毛が生えてるか、毛がないか、独眼竜か」


吉川 「独眼竜の? 伊達政宗の髪型思い出せないけど」


藤村 「それは俺も知らない。あれだろ? デカいナイキのマークが入ってる兜」


吉川 「ナイキのマークじゃないと思うけどな。三日月でしょ、どう考えても。いる? あの兜をかぶってるおじさん」


藤村 「ナイキが好きなおじさん」


吉川 「ナイキのキャップを? あのキャップ被ってるおじさんを見て『お、独眼竜だ!』って思うの?」


藤村 「おじさんはナイキが好きだから」


吉川 「おじさんが好きというか、若い頃に流行ったから今でも好きな人はいるんだろうよ」


藤村 「な? おじさんは3種類だろ」


吉川 「独眼竜が強すぎるんだよ。そもそもなんだよ、独眼竜って。隻眼とか片目とか他に言い方あるだろ。独眼竜は政宗以外で使う言葉じゃないよ」


藤村 「だから俺に言うなよ。俺はおじさんだからまぁまぁおじさんの見分けはつくよ。でも世間の人にとっておじさんの顔なんてって話をしてるんだから」


吉川 「二種類でよくなかった? 太ってるか痩せてるか、ハゲてるか毛があるか、で」


藤村 「でもそこに独眼竜が来たら」


吉川 「それは独眼竜だけども。来ることないカードだろ。それを待ってテンパってるやつ頭おかしいぞ」


藤村 「あとは、メガネだな」


吉川 「あー。メガネか。確かにそれで区別しちゃうことある」


藤村 「メガネを掛けてるか、かけてないか、コンタクトをしてるか」


吉川 「そこは独眼竜じゃないのかよ!」



暗転

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