集中

吉川 「試験勉強って言ってもさ、なんかどうしてもSNSとか見ちゃうし」


藤村 「あれとか聞いてる? 集中力の高まる音楽」


吉川 「なんか見たことあるな。動画サイトで」


藤村 「そうそう。いっぱいあるよ。あれやばいよ。あれ聞くともう集中力がバッキンバッキンになるから」


吉川 「そんなに? 集中力が高まった擬音てそれで合ってるの?」


藤村 「一回も聞いたことないの?」


吉川 「うん。聞こうって思いつかなかったわ」


藤村 「俺なんてもうすごいから。集中力が高まっちゃってさ、もうその曲もバッチリ覚えてる」


吉川 「そっちに集中しちゃったの? 勉強じゃなくて?」


藤村 「もう勉強なんかよりも集中力の高まる音楽に集中してるから。勉強は楽しくないし」


吉川 「そうだろうよ。楽しくないけど集中してやらなきゃいけないから困ってるって話をしているわけで」


藤村 「だからそんな時のための集中力の高まる音楽だよ」


吉川 「いや、勉強への集中力を高めるんでしょ?」


藤村 「勉強はダルいじゃん。まだ集中力の高まる音楽の動画に集中してるほうがマシ」


吉川 「だからそれはそうだよ。マシっていうか、なんにもならないだろ。その行為は」


藤村 「そりゃもう集中してるぜ? 結構細かいパーカッションの音も聞き漏らさないし」


吉川 「力配分が逆なんだよ。音楽はどうでもいいんだから」


藤村 「ここのモチーフが繰り返されてるなってところからの転調! みたいなのでかなり沸くし」


吉川 「沸くの!? 集中力を高める音楽で沸いてるオーディエンスが存在するわけ?」


藤村 「フーッ! とか声あげちゃうから」


吉川 「集中力の高まる音楽で? そんなノリ方は音楽作った人も想定してないんじゃない?」


藤村 「まじでライブがあったら全通したいもん」


吉川 「やるわけないだろ。ライブで。集中力高める音楽を。客は高まった集中力のやり場に困るだろ」


藤村 「もうそのままバックトラックとしてフリースタイルでラップ乗せたいくらいだから」


吉川 「もう集中すらしてなくない? ラップしたくなっちゃってるやつ絶対集中してないだろ」


藤村 「フリースタイルじゃなくても。今度は集中してリリックを書くかな」


吉川 「勉強は! もう勉強をするという当初の目的を投げ捨ててる。何のための集中だったんだ」


藤村 「集中ってのはさ、その時のやる気を倍増させるものだからさ。ほんの少しだけあった『勉強面倒だな』って気持ちが数倍になって加速しちゃって」


吉川 「そっちを加速させるなよ! 勉強をするという気持ちに集中かけないきゃダメだろ」


藤村 「勉強も捗ってるんだよ」


吉川 「あ、捗ってるの? だったらいいけど」


藤村 「もう集中しすぎちゃってるから。おのずと答えが頭に思い浮かんでくるの」


吉川 「それ勉強じゃなくない? 超能力の一種だろ。何の能力を開発されちゃってるんだよ」


藤村 「試験中もあの音楽がかかれば一発なんだけど」


吉川 「かからないだろ。試験中には。フーッとか言い出す人いるみたいだし」


藤村 「あの音楽がなければ試験も落ちるかもなぁ」


吉川 「音楽のせいにするなよ」


藤村 「そしたら他の音楽でなんとか乗り越えるしかないな」


吉川 「乗り越えられないだろ、そんな音楽では」


藤村 「チルする音楽ってのが沢山あるから」


吉川 「チルって、桜散るみたいな意味じゃないと思うよ?」



暗転

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