謝れない

藤村 「だから謝るのが苦手なんだよね」


吉川 「いるね、そういう人」


藤村 「いるでしょ。ほら人間てさ、基本的に謝るのが嫌いじゃん」


吉川 「人間? 別に嫌いじゃない人もいるだろ。逆に謝るのが得意なのは何なの? パンダとか?」


藤村 「ロボとか」


吉川 「ロボかぁ。ロボは確かに得意不得意がなさそうではあるな」


藤村 「俺も人間だからさ」


吉川 「それは見ればわかるけど。人間全部のせいにするのは流石に主語が大きすぎるだろ」


藤村 「まぁそうだな。ほら、東アジア人って謝るの苦手じゃん?」


吉川 「それはまずいな。なんかその地域の切り取り方は悪意ない? 差別的な意識が生まれそうな気がするんだけど」


藤村 「俺も含めてね。東アジア人だから」


吉川 「そうだけども! それはなんか新たな火種になりそうだからやめた方がいい」


藤村 「そう? じゃ、関東の人間て謝るの苦手じゃん?」


吉川 「日本人をすっ飛ばしてきたか。落とし所として日本人くらいがちょうどいいと思ったのに、そこを無視して関東に来たか。他の地域は謝るの得意な印象あるか?」


藤村 「東北とかそもそも人住んでなさそう」


吉川 「住んでるよ! 失敬なこと言うなよ。結構住んでるよ」


藤村 「熊とかの方が多いんじゃないの?」


吉川 「熊も増えてるけども。ちゃんと人はいるし、それぞれ個性のある人間たちが生活を営んでいるんだよ」


藤村 「あとO型だから。謝るの苦手なんだよね」


吉川 「関係ないと思うけどな! 血液型診断自体がそもそも眉唾って言われてるのに」


藤村 「でもA型の人ってそもそも怒られないじゃん」


吉川 「そんなことはないよ! 怒られるA型もいっぱいるよ」


藤村 「それA型はA型でもAOじゃないの?」


吉川 「知らねーけど! その血液型の更に詳しい分別法は全然わからないけど、そういうことでもないと思うよ。A型でウッカリのやつもいるし、AB型できちんとしたやつもいるんだから」


藤村 「あとほら、俺はお前より学歴がちょっと上じゃん? だから謝れないってのもあって」


吉川 「関係ないだろ! 言うほど上か? そりゃそっちの大学の方が知名度はあるけど、上とか下は誰が決めてるの? 入学時の偏差値? 社会に出て何年経つと思ってるの?」


藤村 「そう言いたい気持ちはわかる。でもほら、そういうのは下の人間が言うことじゃないから。上の人間が関係ないよっていう分には成立するけど」


吉川 「上下を嫌味なくらい強調してくるな! そんな上でもねえくせに!」


藤村 「でも謝れる方でしょ? 下だから」


吉川 「下だからじゃないよ! 自分が悪いと思ったら謝るし、お互いに円滑にコミュニケーションするために必要だったら謝るよ」


藤村 「そう簡単に割り切れなくない?」


吉川 「割り切るんだよ、そこを。それが大人ってもんなんだから!」


藤村 「東アジア人なのに?」


吉川 「なんの偏見なんだよ! 東アジア人でも多くはそうだろ。俺は人生で初めて東アジア人離れしてるって思われたよ」


藤村 「関東だっけ?」


吉川 「九州だよ! 九州だけど関係ないだろ、謝るのとは。もう東京に来て10年以上になるんだよ」


藤村 「なのに謝れるの?」


吉川 「お前は逆に東京に何を抱えてるんだ? そんな縛りはないだろ、東京に」


藤村 「そもそもこのバースにおいて謝る必要あるのかって話で」


吉川 「マルチバースを導入するなよ! ただでさえややこしい世界観を。ただ自分が謝れないということのために導入するんじゃないよ!」


藤村 「でもこんな時になんて言えばいいかわからないんだよね」


吉川 「ゴメンでいいんだよ! 言えばいいだろ、ゴメンを」


藤村 「割り切れないなー」


吉川 「そんな難しく考える必要はないんだよ。その場をやり過ごすためにとりあえず言っておくことだってあるんだから」


藤村 「二面とか四面の方が割り切れない?」


吉川 「一生謝る気ねえだろ!」



暗転

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