浮気

藤村 「マジで最悪なことになったんだけど」


吉川 「どうした?」


藤村 「浮気。まさかやられるとは思わなかったわ」


吉川 「え、奥さん?」


藤村 「そう」


吉川 「マジか。そんなタイプには見えなかったけど」


藤村 「そうなんだよ。俺もそんなタイプじゃないと思って油断してた」


吉川 「わからないものだなぁ」


藤村 「このままいったら離婚するかも知れないし、そうじゃなくてもギクシャクはするわな」


吉川 「ご愁傷さま。なんて声をかけていいかわからないが」


藤村 「ホントさぁ。まさかと思ったからね」


吉川 「相手はわかってるの?」


藤村 「わかってるよ、もちろん。若い子だよ」


吉川 「若いっていくつくらい?」


藤村 「21。うちの会社のバイトで入ってきた子だから」


吉川 「お前の会社の!? なんでそんなややこしいことに」


藤村 「しょうがないじゃん。可愛かったんだから」


吉川 「ん? なに? 何の話?」


藤村 「浮気」


吉川 「お前がされたんだよね?」


藤村 「浮気をしたのは俺だよ?」


吉川 「はぁっ!? だってやられたって」


藤村 「そう。やられた。まさか探偵雇って証拠まで取られるとは」


吉川 「なに? やられたって証拠を掴まれたって意味で言ってるの?」


藤村 「そんなタイプには見えなかったんだけど、油断したなぁ」


吉川 「それは、浮気を突き止めるようなタイプには見えなかったから油断して浮気してたってこと?」


藤村 「そう」


吉川 「そう、じゃねえよ! 完全に悪いのお前じゃねえか」


藤村 「でもさ、俺は家事もやってるし。むしろ結構やってる方。一人暮らし長かったからね」


吉川 「関係ないだろ。浮気したんだろ?」


藤村 「まず疑うかね? こっちはちゃんと家のことだってやってたのに」


吉川 「いや、疑うかって、実際にやってたんだろ? 浮気を」


藤村 「実際にはやってたよ。でも疑って調べようとしなければ暴かれなかったんだぞ?」


吉川 「やってたらダメだろ。なんでちょっと物申そうとしてるんだよ。そんな権利ないよ」


藤村 「平穏な家庭をわざわざ壊すなんて正気の沙汰じゃないだろ」


吉川 「お前の浮気のせいだろ! お前が10悪いだろうが」


藤村 「向こうが90?」


吉川 「10ジュウゼロだよ! どこからその被害者意識をひねり出したんだよ」


藤村 「でも探偵雇ってるんだよ、向こうは。おかしくない? 俺は浮気はしたけど他人の力に頼らず自分自身で口説いたんだから」


吉川 「全然共感を呼ばない言説をよくそこまで胸張って言えるな」


藤村 「だってほら、家庭の問題なわけじゃん? そこにさ、探偵っていう赤の他人を入れるかね?」


吉川 「まず家庭の問題に赤の他人である若い女の子を入れたのお前だろ?」


藤村 「それは家庭じゃないから。俺個人だから。俺が個人的にその子とあっただけで」


吉川 「なんで切り替えられると思ってるんだよ。無理だよ、そんな自在に立ち位置を切り替えられないんだよ」


藤村 「わかった。浮気は確かに悪いことかも知れない。でも世界では戦争や貧困などもっと大変なことが起きてるんだよ? そんな時に俺の浮気ごときにかまけてる場合か?」


吉川 「すり替えられねえよ! もっとややこしいことで有耶無耶にしようとしてるけど、戦争が大変だから浮気は置いといてとはならないよ。まず距離感が無理だよ」


藤村 「俺はいつだって世界の危機を我が事のように身近に感じてる」


吉川 「そんなやつが浮気をするかよ! 余裕がありすぎるだろ」


藤村 「いつ何があるかわからないから、悔いのないように生きようと決めてるんだ」


吉川 「言い訳の言葉だけは格好いい。内容はクズなのに」


藤村 「世界には問題が山積みなんだよ。エネルギー問題も、国境問題も、宗教の問題も、世代間の問題も。そういうあらゆる事態に無関心なことが一番の問題なんだ!」


吉川 「一番の問題は下半身だろ!」



暗転

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