吉川 「そりゃ愛してるよ。たとえ世界を敵に回しても彼女のことだけは愛し続けるね」


藤村 「それ本気で言ってるの?」


吉川 「本気だよ? そのくらいの気持ちではいる」


藤村 「オラァ!」


吉川 「ってぇ! なんだよ。なにするんだよ」


藤村 「敵なんだろ?」


吉川 「なにが? え、なに? どうした?」


藤村 「世界を敵に回す宣言したじゃん。ということはもう俺は敵なんだろ」


吉川 「いや、違うよ。たとえだよ。そうなったとしても」


藤村 「今は違ってもいつかはなるってことだろ? だったらその前に仕留めるしかねえ!」


吉川 「待ってくれよ。お前は別に敵に回らなくてもいいだろ」


藤村 「だって世界を敵に回すんだろ? 俺は世界の一部だもん。もう敵ってことじゃねえかよ」


吉川 「いや、味方になってくれてもよくない? 友達だろ」


藤村 「お前と彼女だけが世界の敵なんだよ。そう断言したんだから」


吉川 「別になりたいわけじゃないんだよ。そうなったとしてもって話で」


藤村 「世界の敵なんだから、この世界を破滅させようとしてるんだろ。そんなやつ野放しにできるかよ」


吉川 「考えてないよ。割とこの世界は気に入ってるし」


藤村 「だったらどうやって世界の敵になんてなるんだよ!?」


吉川 「それはこっちが聞きたいよ」


藤村 「お前がなるって言ったんだろ! 世界のすべてをぶち壊そうとでもしない限り、世界を敵に回すなんてことにはなりえないぞ?」


吉川 「たとえ! あくまでたとえで、そうなったとしてもって話だから」


藤村 「お前にはその覚悟がもう出来てるんだろ? こっちがまごまごしてる間に。世界を敵に回しても戦い抜ける算段がついてるわけだ」


吉川 「ついてないよ。もしそうなっちゃったら、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するだけだよ」


藤村 「そんなことに彼女を巻き込んでいいと思ってるのかよ。ひどすぎる! そんなの愛でもなんでもない!」


吉川 「俺が世界の敵になるのに彼女を引きずり込んだ感じになってるの? 逆じゃない? 彼女が世界の敵になったとしても、俺は彼女の味方ってだけで」


藤村 「あの女、そんな最悪なこと目論んでやがるのか!」


吉川 「目論んではないよ。そういう事態にはなってないから」


藤村 「ほう、二人でってことか。自分たちをボニーとクライドに重ね合わせて、この世界に一泡吹かせようってわけか」


吉川 「全然そんなこと思ってない。じゃあもう世界を敵に回さないから」


藤村 「今更撤回したところで世界の方はそうもいかんだろ」


吉川 「そんなに影響力のある言葉だった? ちょっと言っただけじゃん」


藤村 「聞いてしまった以上、世界に生きるものとして俺は世界に敵対するものを糾弾しなくてはならない」


吉川 「いや、お前かよ! お前が聞き流せばいいだけじゃん」


藤村 「だから俺も敵に回すってことだろ! 言って欲しくなかったよ、そんな言葉は」


吉川 「違うよ。言い回してとしてあるじゃん。聞いたことない?」


藤村 「他人がどう言おうと知るか、俺が目の前にいるのにそんなこと言うなんて、お前を敵に回すって宣言と一緒だろ」


吉川 「ごめん。じゃ、あの。今更こんな事いうのなんだけど、お前もこっちに来てくれないか? 世界が敵に回った時にお前も仲間になってくれない?」


藤村 「俺も? いいのか? お前の彼女とお前と、俺で。男女男で嬲るっていう字みたいになっちゃうぞ?」


吉川 「やなたとえかたするな」


藤村 「ヤバいTシャツ屋さんみたいになっちゃうけど、俺なんの楽器もできないぞ?」


吉川 「バンド組むわけじゃないから。なんか歌で世界に対抗しようとしてる?」


藤村 「よし、わかった。じゃ、とりあえずその辺に火をつけてくるわ」


吉川 「ノリノリで破壊工作に励むなよ。やりたかったのかよ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る