お見舞い

藤村 「予定していた小児病棟へのお見舞いの件ですが」


吉川 「はい。なにかありましたか? ひょっとして……」


藤村 「それが結構な数のクレームが来てですね」


吉川 「クレーム? なんで? 病気で頑張ってる子供たちをお見舞いに行くなんていいことじゃないですか。プロスポーツ選手やハリウッドスターだってみんなやってる」


藤村 「そうなんですけども、病気の子供ばっかり依怙贔屓しやがって、という意見もありまして」


吉川 「いいじゃないか。頑張ってるんだから! どんなやつがクレームつけてくるんだよ。人間の心あるのかよ」


藤村 「なので色々と協議した結果、病気の子供たち以外のお見舞いにも行くという形にさせていただきました」


吉川 「そうなの? まぁ、それでも別にいいけどさ。辛いところを頑張ってるんだから。しかし世の中にはくだらないクレームつけるやつがいるもんだね」


藤村 「で、今回はおじさんです」


吉川 「おじさん」


藤村 「はい。おじさんです」


吉川 「ま、おじさんも頑張ってるか。ね? おじさんだからって軽々しく扱っていいわけじゃないもんね。その辺は平等にいかないと。いいですよ、おじさんでも。俺で勇気を与えられるなら行きますよ」


藤村 「で、今回の気持ち悪いおじさんなんですが」


吉川 「気持ち悪い? え、ちょっと待って。気持ち悪いおじさんなの?」


藤村 「はい。おじさんなので気持ち悪いですけど」


吉川 「いや、別におじさんなのでってこともないでしょ? オールおじさん気持ち悪いって法則はないよ?」


藤村 「います? 気持ち悪くないおじさん」


吉川 「そんな真っ直ぐな目で問われてもさ。いるって返しづらいじゃん。いるよ、中には」


藤村 「でも今回のおじさんは多分気持ち悪い方だと思いますよ?」


吉川 「やめなよ。そういう言い方。心の中にしまっておきな。おじさんでいいじゃん、普通に。病気でも頑張ってるおじさん」


藤村 「いいえ、病気ではないです」


吉川 「病気じゃないの? どういうこと? 怪我?」


藤村 「不健康ではあります。どの数値もビックリするほどオーバーしてるって」


吉川 「え、なに? 病院でつらい思いをしている人をお見舞いするっていう形じゃないの?」


藤村 「違います。汚い部屋で自堕落に生きてるおじさんです」


吉川 「なんでそんなのをお見舞いしなきゃいけないの?」


藤村 「やはり病気の子供だけじゃ不公平だって意見もあるので」


吉川 「あってもさ、お見舞する甲斐がないじゃん。ただのおじさんでしょ?」


藤村 「ただっていうか、気持ちが……その、あれの方です」


吉川 「心の中で気持ち悪いって言ったな。学んでるな。あんまりその濁し方も意味ないと思うけど」


藤村 「もう先方は相当楽しみにしているみたいで」


吉川 「言ってあるの? 行くって? もう言っちゃってるの?」


藤村 「言っちゃってます」


吉川 「言っちゃってたら行かなきゃまずいじゃん。俺が行くのを楽しみにしてくれてるんだよね?」


藤村 「週四のパチスロくらい楽しみにしてるって言ってました」


吉川 「じゃ、パチスロでいいじゃん。パチスロと同等だったらパチスロに行けよ」


藤村 「パチスロよりちょい上くらい楽しみらしいです」


吉川 「ちょい上で俺がいかなきゃいけないの? ありがたみを感じてないじゃん、そんなの」


藤村 「でも病気の子供以外のところにもちゃんと行ってるぞというアピールも必要なので」


吉川 「それ本当に必要なやつ? あんまり美談にもならなくない? あのさ、こういっちゃなんだけど別にこういうのって本心から行きたいっていうよりもイメージ戦略の部分があるわけじゃない? ぶっちゃけちゃうとね」


藤村 「え? 病気の子供は?」


吉川 「いや、だから病気の子供は気の毒だと思うよ? 俺で力になれるならなりたいよ? でもそれプラス、お見舞いに行ったというイメージもないとは言わないだろ。それはみんなわかってるけど言わないだけで」


藤村 「はぁ」


吉川 「おじさんでそれがあるかね? 自堕落なおじさんをお見舞いに行きましたって。誰かがそれを聞いて心温まるかね?」


藤村 「確かに言われてみればそうですね。ちょっと企画の方を根本から考え直す必要あるかも知れません」


吉川 「そうなんだよ、わかってくれた? 本当におじさんが困ってるならいいけどね? やっぱり誰かの力になりたいわけだから」


藤村 「では話は変わるのですが、先日の罰ゲームなんですが、気持ち悪いおじさんのお宅訪問ということで」


吉川 「どうあっても行かせるな!」



暗転

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