深い

吉川 「さて、こちらの作品は人間の弱さというのがテーマということですが」


藤村 「そうですね。我々人間、誰しも魔が差すということはありますし、意図して悪を為そうという人は少ないと思うんですよ。でもお金であったり性欲であったり、そういった欲望につい負けてしまう瞬間がある。すべきでないとわかっていてもしてしまうことがある。そんな弱さを描いています」


吉川 「なるほど、大変深いですね」


藤村 「あ、深いですか?」


吉川 「ええ、深いテーマだと思います」


藤村 「そうですね。深さとしてはそれなりに自信があります」


吉川 「やはりこれは藤村さんの実体験がベースになっていたりするのでしょうか?」


藤村 「そうですね、あの~。なんていいますか。いや、ちょっと待ってください」


吉川 「あ、すみません。立ち入ったことを伺ってしまいましたか」


藤村 「違うんです。思いついた答えがあんまり深くなかったなと思ったので、ちょっと一回持ち帰らせてもらって考えてきてもいいですか?」


吉川 「いや、そんな感じを求めているわけではないので」


藤村 「だって浅かったらダメじゃないですか」


吉川 「そんなことないですよ。それはそれで素直な感性をさらけ出しているのかと思いますし」


藤村 「深くありたい。できるだけ深い答えを言いたい!」


吉川 「ちなみに本当はどんな感じなんですか?」


藤村 「ダイエットしなきゃいけないのに夜中にどうしても甘いものを我慢できなくて」


吉川 「浅いなー! 思った以上に浅かった。くるぶしも濡れてない」


藤村 「もうちょい深めのコメントをしたい! 取り返しのつかない過ちが実体験に欲しい!」


吉川 「それはそれで問題になっちゃうから」


藤村 「あと聞いただけで蒼白になるような禍々しい家庭環境で育っていたい!」


吉川 「別にそんなことはないんですよね?」


藤村 「うちの両親。未だに二人で休日におでかけしてる。この間ポケモンセンターに行ったってぬいぐるみおみやげに買ってきやがった」


吉川 「仲が良い! 幸せを絵に描いたような家庭。でもだからといって本人にとっては鬱屈したストレスがあったりとかは?」


藤村 「全然ない。毎日10時間眠れる。ご飯もやたらと美味しい。最近はパクチーの美味しさに目覚めちゃって」


吉川 「健全! ただコメントとして深みはないですけど、そういう方が書いた作品だっていうことも魅力の一つになってると思われますから」


藤村 「嫌だ! コメントの深みが欲しい! 作品は正直もうどうだっていい。どうせ作品読んだ人なんてみんな作者のことなんて興味ないじゃん。コメントは作者に興味ある人が読んでくれるんだよ! 一番力を入れたい!」


吉川 「作品じゃなくて? コメントの方に力を入れたいの?」


藤村 「頭が良いと思われたい! 作品よりも俺を褒めて欲しい!」


吉川 「溢れんばかりの自意識」


藤村 「これを踏み台にタレントになりたい! 世相を斬るような鋭い意見を言うコメンテーターとしてワーキャー言われたい!」


吉川 「浅いなー。もう全部が浅い。欲望も全然オリジナリティがない」


藤村 「いちいち感銘を与えるような深みのあるコメントをしたい! リュウグウノツカイがいるところくらいの深みでコメントをしたい!」


吉川 「でも作品自体はなかなか深みのあるテーマだと思うんですよ」


藤村 「作品の深みに気づくような人はワーキャー言ってくれないんだよ! 読みもしないのに話題性だけに飛びつくバカだけがワーキャー言ってくるんだから。そういう層に届くことが売れるってことなんだから」


吉川 「完全に客を見下した発言。あんまり言わない方がいいですよ、そういうの」


藤村 「ただ売れたい。金が欲しい。名声も。それでしょーもない人生を送ってるようなクズどもを見下して高笑いしたい!」


吉川 「不快ですねー」



暗転

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