怒り

藤村 「ならぬ!」


吉川 「なぜですか!? 教えてくれるくらいいいじゃないですか」


藤村 「お主の心に怒りがあるからじゃ」


吉川 「怒りが? 別にないですよ、そんなもの」


藤村 「よいか? どのような技も力も、突き詰めれば暴力となりうる。だから少しでも怒りがあるものに教えることはできんのじゃ」


吉川 「私のどこに怒りがあるというんですか? こんなに心穏やかなのに」


藤村 「どうかな? 先日こんな話があった。ワシのスゴテクを取材しようとTV局が申し込んできたのじゃ。しかし、その態度がいかにも出させてやるぞという上からで。ワシがそんな無礼はお断りじゃというと『いいんですか? 有名になりたいんでしょ?』とか言ってきたのじゃ」


吉川 「マジ許せねえな! 先生のスゴテクを何だと思ってるんだ! TV局って自分が王様だった時代をずっと引きずってるんだよな。もう没落してるってのに」


藤村 「ほれ、怒りがあるじゃろう」


吉川 「ハッ! いや、しかしこれは先生がバカにされたからで。ここで何も言わないようではこの気持ちを疑われるというもの」


藤村 「果たしてそうかの? こんな話もあったかのう。ワシの知り合いのお孫さんが賢くて賢くて笑えるくらい賢いらしいんだが、小学校でテストを受けたんじゃ。どうせ満点じゃろうと思ってたところなんと40点。理由を聞いてみると掛け算の順序が違うとか、習ってない漢字を使ってるとかだったそうじゃ」


吉川 「あー! それは問題ですよ。教師っていうのは子供の可能性を潰さないことが一番大事なんだから。絶対駄目です! そんなことやって勉強を嫌いになったら元も子もないじゃないですか」


藤村 「そうじゃ。あの理不尽な採点さえなければ55点は堅かったそうじゃ」


吉川 「んー。さして賢くもない! これはひょっとするとどっちもどっちの可能性ありますね」


藤村 「そうなのじゃ。片一方の言い分だけ聞いて怒ってるようではまだまだじゃ」


吉川 「そもそも怒るのがダメなんですよね? そういう話ですよね?」


藤村 「そうじゃ。こんな話もある。旦那さんが出かけてる間に、奥さんが勝手に物を捨ててしまったそうじゃ。自動車やバイクのパーツ、今では手に入らないようなものもあって値段もつけられないようなお宝もあったそうじゃ」


吉川 「それはダメな奴です! 一番ダメ。人にとって何が大切かはわからないんだから。自分の価値観で勝手に捨てる奥さんは横暴です。許せません!」


藤村 「その奥さんの機転のおかげで旦那さんは捜査の手を逃れることができたそうじゃ」


吉川 「旦那さん窃盗団なの? もう登場人物が全員クズなんですが?」


藤村 「やはりお主の心には怒りがあるようじゃの」


吉川 「だったら先生はどうなんですか? そういえばこの間、電通が……」


藤村 「あぁん!? また電通がなんかやったのか! あいつらろくなことしねえな。それでとんでもない給料もらってんだろ。あんな空っぽの奴らがよぉ!」


吉川 「まだ何も言ってないのに。しかも怒りの根源が嫉妬。醜い。あとマンガの編集者が……」


藤村 「出た! 無能編集者! クリエイティブ能力がないからサラリーマンになるしかなかったのに、何いっちょ前に創作者気取りなんだよ! 自分は何の責任も負わず給料もらってるくせに作家にだけ身を切らせやがって! しかもネットでマンガ家が上げたマンガがバズったりしたら悔し紛れに苦言を呈したりするやつ!  まじでいらねえやつら。ゴミカス!」


吉川 「語気が強い! なにか実体験があったかのような怒り。全然抑える気もなさそう」


藤村 「他にはないのか?」


吉川 「欲しがってる! 次のやつ、どんどん過激なやつを欲しがってる。もう手が付けられない」


藤村 「もっとあるじゃろ! 炎上してるやつが! そういうタレコミのアカウントとかあるんじゃろ? 教えろ!」


吉川 「ならぬ!」



暗転


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る