吉川 「話が違うだろ! 完全犯罪請負師はどうしたんだよ?」


藤村 「彼も忙しくてね。それにあなたに彼の法外な料金が用意できますかね」


吉川 「金はなんとかする! でもこのことがバレるわけには……」


藤村 「だから私が来たんですよ」


吉川 「あんたも完全犯罪請負師なのか?」


藤村 「いいえ。まぁ、彼とはお互いに客を取り合うライバルと言ってもいいでしょう。人は私のことをチャーハンべちょべちょ師と呼びます」


吉川 「……なんて?」


藤村 「チャーハンべちょべちょ師です」


吉川 「チ、チャーハンべちょべちょ師? それは何? どういう意味が隠されてる言葉で?」


藤村 「私が作ったチャーハンは必ずべちょべちょになるということです」


吉川 「あ。たとえとかじゃなくて? 本当のチャーハンのこと?」


藤村 「本当のチャーハンのことです」


吉川 「それが何しに来たの?」


藤村 「私が代わりに受けましょう」


吉川 「いやいや、ダメだよ! なんでチャーハンべちょべちょ師が出しゃばってきてるんだよ。完全犯罪請負師に頼んだんだから」


藤村 「あいつに頼むのは金の無駄ですよ」


吉川 「ちなみにあなたはいくらなの?」


藤村 「2000円です」


吉川 「安い! 気持ち悪いくらい安い! いや、チャーハンとしては高いか。完全犯罪をしてくれるの?」


藤村 「完全犯罪だろうと冷や飯だろうと、なんでもチャーハンにしてやりますよ」


吉川 「どういうこと!? チャーハンになるの? 完全犯罪じゃなくて?」


藤村 「最終的にすべてのものはチャーハンになります。パエリアだろうとピラフだろうと」


吉川 「ならないだろ。もうパエリアはパエリアで完成してるんだから手を加えるなよ」


藤村 「絶対にべちょべちょのチャーハンにしてみせます」


吉川 「嫌だな。なんでそんなことするの? 嬉しい結果になってないんだけど」


藤村 「それがチャーハンべちょべちょ師の使命ですから」


吉川 「だからお呼びじゃないんだよ。完全犯罪を頼もうとしてるの。わかる?」


藤村 「完全犯罪とチャーハンとではハンの部分が一緒なので」


吉川 「関係なさすぎるだろ。ハンが一緒だから何? 代替可能なものじゃないでしょ」


藤村 「それは私のチャーハンを食べてから言ってください」


吉川 「なんでだよ。嫌だよ、べちょべちょなんでしょ?」


藤村 「もちろん」


吉川 「自信たっぷりに。べちょべちょのチャーハンて、そもそも失敗だろ」


藤村 「いいえ。狙ってべちょべちょなんです」


吉川 「それはなんで? その理屈が一番良くわからない」


藤村 「やはり生まれ持った能力としかいいようがないですね。なってしまうんですよ、べちょべちょってやつにね」


吉川 「だからそれ失敗してるんだって。べちょべちょにならない人のほうが能力があるんだから」


藤村 「しかし、わかめスープがついてきても同じことを言えますかね?」


吉川 「言えるよ。別にわかめスープがついてきたからって、心変わりしないよ。そんな影響力ないぞ、わかめスープには」


藤村 「呆れた人だ。そんなこともわからずに完全犯罪請負師に話を通そうっていうんだから。これだから素人は困る」


吉川 「確かにこっちは素人だけど、チャーハンべちょべちょ師は逆になんのプロなんだよ?」



笹咲 「そいつに話したって無駄ですよ。完全犯罪どころかチャーハンのためなら裏切りすらなんとも思わない男です」


藤村 「貴様、何しに来た!?」


吉川 「誰です? あなたがひょっとして、完全犯罪請負師なのか?」


笹咲 「御生憎様、俺は人呼んで上履きかかと踏みつけ師」


吉川 「もう二人とも帰れよ!」



暗転

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