ネタバレ

藤村 「本当にすごい良かったんだよ。できれば早く観て欲しい」


吉川 「そんなに? あんまり映画って見に行かないんだけど」


藤村 「そういう人にこそ見て欲しい。とにかくすごいから」


吉川 「俺みたいなやつでもわかる?」


藤村 「わかるわかる。とにかくね、あーでも話すとなるとネタバレになっちゃうか」


吉川 「やめてくれよ。ネタバレとか。せっかく行く気になってきたのに」


藤村 「行く? 絶対に行く?」


吉川 「絶対とは言い切れないけど」


藤村 「じゃあその心意気を絶対に上げるまで、いい場面を言うわ」


吉川 「だからそれネタバレじゃないの?」


藤村 「ネタバレではあるんだけど、嘘も交えるから」


吉川 「なんだよ、嘘って」


藤村 「ネタバレですっていう形でありもしないことをいうの。そうするとそっちはネタバレ食らったーと思うけど、実際に映画を見るとネタバレじゃないから二度美味しい、みたいな」


吉川 「二度美味しくないよ。一度だって美味しくない」


藤村 「えっ!? 巨大なゴリラが出てきて暴れるんじゃないの? って思ってたら出てこないで終わる」


吉川 「余計に嫌じゃない? 見てる最中ずっとモヤモヤするでしょ」


藤村 「モヤモヤが嫌なら確実なネタバレをするけど? 絶対にあるシーンを」


吉川 「なんでだよ。それも言うなよ」


藤村 「まずね、主人公がいるんだけど」


吉川 「ほらもう! やめてよ。ネタバレは」


藤村 「いやいや、これも嘘かもしれないから。主人公なんていないかも知れないよ?」


吉川 「主人公いないってどういうことだよ。群像劇ってこと? それにしたってフォーカス当たってる人物はいるだろ」


藤村 「だからほら、環境映像みたいな」


吉川 「環境映像みたいな映画なの? それをそんな勢いで勧めてきてるの?」


藤村 「だから主人公がいるかどうかは、実際に映画を見てからのお楽しみ」


吉川 「そんな浅瀬を楽しみにするやついる? うわー! 主人公が、いたー!? ってレベルで感動味わってたら脳がぶっ壊れるよ」


藤村 「だからほら、主人公の親がいてその関係がちょっと複雑なんだけど」


吉川 「まぁ、そのくらいはいいか。公式サイトにも載ってそうだし」


藤村 「いや、親がいるかどうかもわからないけどね」


吉川 「いるだろ、親は。誰かから生まれてきてるんだから。映画にそれが描かれるかどうかはわからないけど」


藤村 「いや、本当に親なんて存在はない無から発生した可能性もあるから」


吉川 「何の映画!? それはそれで全然ジャンルがよくわからないな。SFなの?」


藤村 「家族の絆を描くハートフルコメディだけど」


吉川 「家族の絆を描くハートフルコメディで無から発生した存在がでてこないだろ。急にそいつだけ世界観違うじゃん」


藤村 「家族の絆を描いたハートフルコメディかどうかも嘘かもしれない。それは実際に劇場で確かめてみて」


吉川 「ジャンルくらいは特定してよくない?」


藤村 「そこで、えーと、あの、宇宙……じゃなかった。えーと、レースが始まります」


吉川 「完全に嘘のパートが来たな。人に映画勧めるのにそこまで言い淀むことあるか」


藤村 「で、結局レースは終わって。それはどうでもよくて、ここからの主人公を取り巻く仲間たちの描き方が神がかってるんだよ!」


吉川 「テンション! 嘘をつくならもうちょっときちんと騙してくれよ。感情の浮き沈みが激しすぎる」


藤村 「仲間たちもそれぞれ傷ついた過去があって、でも全体的に明るいトーンで語られるから辛くないんだよね。あれだけの状況を言葉ではなく映像で見せて、もう絶対に好きになっちゃう魅力的なキャラクターたち」


吉川 「そうなんだ。それはちょっと見たいかな」


藤村 「嘘かもしれないよ?」


吉川 「そんな悲しい嘘をつく必要ある? 魅力的なキャラクターたちはいなかったんだ、って映画館で佇む俺の姿を想像して嘘をつけよ」


藤村 「見たくはなった?」


吉川 「そこまで言われたらな。わかった。見るよ。予告の動画見て気持ちを高める」


藤村 「そうして!」


吉川 「え? これって、レースの映画なの?」


藤村 「そうそう!」


吉川 「いや、そうそうじゃないだろ」



暗転

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