入れ替わり

吉川 「ひょっとして……」


藤村 「俺達、入れ替わってる!?」


吉川 「どうしよう」


藤村 「あの、年収いくらだっけ?」


吉川 「なんで? なんで急にそんなこと聞くの?」


藤村 「ほら、一応。それによっては困るか困らないか決めなきゃいけないから」


吉川 「いや、困るだろ! 入れ替わってる時点で困れよ! なんで状況次第では受け入れようとしてるんだよ」


藤村 「そうやってすぐに困って右往左往しては思うツボだぞ」


吉川 「誰の? 誰かの差し金で入れ替わってるわけ?」


藤村 「ちなみにSNSのフォロワー数はどのくらい?」


吉川 「それで納得しようとしてるの!? フォロワー数多かったら、これはこれでアリか。って思える?」


藤村 「数による」


吉川 「よらないだろ! どんだけフォロワー数が多くても今までの生活が一変してしまうんだぞ?」


藤村 「正直、一変して欲しいなぁくらいの気持ちで生きてはいた」


吉川 「マジかよ。そんな人と入れ替わっちゃったの? この生活から逃れられるならどんな形でもいいくらいに考えてるやつと」


藤村 「なんだよ、その言い草は! 美少女でもないくせに!」


吉川 「確かに美少女じゃないけど。あんたと入れ替わるために生きてきたわけじゃないから。美少女じゃないくせになんて因縁のつけられ方したの初めてだよ」


藤村 「ちなみに俺、先週炊飯器買い替えたけどね」


吉川 「だからなに!? 急に何の話をしだしたの?」


藤村 「これが本当に米美味しいんだわ。結構感動するよ? これからその米が毎日食べられるんだぞ?」


吉川 「炊飯器で!? 米の美味しさでこの珍妙なアクシデントを飲み込ませようとしてるの? だったらいいか、ってならないだろ!」


藤村 「あとあれだわ。最近は慣れちゃってたけど、電動歯ブラシもいいやつだから。振動の回数が桁違いなの。最初は絶対に感動すると思う」


吉川 「なんで変わってよかったアピールをしてくるんだよ! 戻る方向で努力していこうよ」


藤村 「あ、でも歯ブラシはアレか。なんか、他人の歯ブラシを使うの気持ち悪いか。でも身体としては本人のものか。どうする? 歯ブラシ」


吉川 「適応し始めるなよ! 確かに他人が使った歯ブラシは嫌だけども! でも元に戻った時のこと考えると、一時的とはいえ違う人の身体が歯ブラシ使ってたら最悪じゃない?」


藤村 「そんな先のことはわからないじゃん」


吉川 「わかれよ! 考えろよ! 元に戻った後のことを! なんで変わった先の未来しか見てないんだよ」


藤村 「過去ばっかり振り返ってもしょうがないだろ」


吉川 「早い! 切り替えが早すぎる! 身体が入れ替わった人が数分でその境地に達する?」


藤村 「前々からシミュレーションはしてたから。できれば美少女が良かったけど」


吉川 「それはシミュレーションじゃなくて気持ち悪い妄想だろ」


藤村 「わかった。じゃあこうするか」


吉川 「なに?」


藤村 「歯ブラシはお互いに新しいのを買って使うことにしよう?」


吉川 「歯ブラシの話をまだしてたの!? 戻ることを最優先で考えろよ!」


藤村 「……よくよく考えたら今俺って他人のパンツ履いてるってことか」


吉川 「急に我に返って落ち込むなよ。お互い様なんだよ!」


藤村 「ちなみにそっちが履いてるパンツ。結構いいやつだよ。新しくおろしたやつだし、勝負パンツて言っても良い」


吉川 「だからなんなんだよ!? 喜べはしないだろ」


笹咲 「CEO! CEO、ご無事でしたか?」


藤村 「あ、やべ! 見つかった」


吉川 「え?」


笹咲 「CEO、さぁ早く。大事な会談を前にどこに行かれたのかとかと思ったら。この会談次第で我が社はさらなる飛躍をするのですから」


藤村 「はぁ~。俺は憧れの庶民生活を満喫するぞ!」


吉川 「あの、なんか色々言ってすみませんでした!」



暗転

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