愚かな

魔王 「愚かな人類どもよ」


吉川 「……でさぁ、その後にあいつなんて言ったと思う?」


魔王 「ちょっと、そこ」


吉川 「結局我が家が一番だ、っつってんのよ!」


魔王 「そこの! おい、お前だ」


吉川 「え、俺?」


魔王 「お前だよ。おしゃべりするなよ。今結構絶望的な声明を出そうとしてるんだから。私語禁止」


吉川 「いや、だって愚かな人類どもって言ったから」


魔王 「言ったよ?」


吉川 「俺は愚かじゃないんで、関係ないのかなって」


魔王 「そういうことじゃないだろ。人類の中の愚かな集団に向けて言ってるわけじゃないんだよ。人類そのものが愚かって意味だよ」


吉川 「いや、でも俺Dr.マリオ結構上手いし」


魔王 「だからなんだよ! それが賢さの証明になると思ってるのかよ」


吉川 「高校の時に模試で全国3位になったことあるし」


魔王 「大人になってからも高校時代の模試の結果を大切に自慢し続けてるやつ、絶対頭良くないだろ」


吉川 「地頭はいいんで」


魔王 「地頭がいいってわざわざアピールするやつ、地以外の頭が壊滅的に悪いんだよ! 結果的に頭悪いやつ。本当に頭が良いなら地頭なんて定量化できないぼんやりした概念にすがらないんだよ!」


吉川 「俺より頭の悪い政治家とかいっぱいいるし」


魔王 「政治のなんたるかもわからないくせに表出化した言動だけをあげつらって他人を見下してるの絶対に頭悪いやつなんだよ!」


吉川 「フォロワーも結構俺の意見にいいねしてくれるし」


魔王 「バカがバカ同士で身を寄せ合って慰めあってるSNSを心の拠り所にしてるやつは確実に愚かなやつだろ」


吉川 「だったらそっちだって、愚かな人類と普通の人類と頭の良い人類みんな聞き給えとか言えばいいじゃん!」


魔王 「そんな良い子悪い子普通の子みたいな呼びかけをわざわざする支配者は欽ちゃん以外いないんだよ!」


吉川 「多分今のところ愚かな人以外誰も聞いてないよ」


魔王 「本当に? 人類の中でも愚かなやつだけが『あ、俺のことだ』って傾聴してるの? そいつら逆に愚かじゃなくない?」


吉川 「どういうこと?」


魔王 「自分のことを愚かだと認識するくらいの社会性をもってるわけじゃん。まだマシだろ。俺は愚かじゃないから俺のことじゃないなって思ってるやつよりはよっぽど賢いよ」


吉川 「え、そっちが賢いってこと? そっちの世界ではそういうことなの?」


魔王 「わかってないのか。バカだから。どこの世界でもそうだよ」


吉川 「そうか。俺は愚かだったかもしれないな……」


魔王 「それは己を知ってる賢者じゃなくて、流されるままに他人の意見を鵜呑みにする愚か者だろ。なに悲壮感まで出してるんだよ」


吉川 「俺ってバカなやつだよ。ゴミの分別もよくわからなくて乾電池を燃えないゴミで捨てちゃうし」


魔王 「バカ! それは本当にやっちゃいけないやつだよ。ちゃんと自治体に定められた方法で出せよ。大型電器店なら店頭で回収してる時もあるから活用しろよ!」


吉川 「あとネット通販で2万円以上お買い求めなら送料無料ってあるせいで、つられていらないものまで買っちゃうし」


魔王 「モノによる! それはモノによるから。むしろ意外と新しい出会いがあったりもするから」


吉川 「あとFXに興味あるし」


魔王 「それはダメだよ。バカが手を出していいもんじゃないから。イメージだけでできる気になってるのが一番ヤバいんだから」


吉川 「サブスク動画で今月1分も見てないなって月もあるし」


魔王 「しゃーない! それはしゃーない! あるから。なんかもったいないなと思って昔のアニメとか見ちゃうことは誰にでもある」


吉川 「良さそうと思って買った掃除グッズも結局使わずじまいだし」


魔王 「考え方変えよ? 掃除のモチベーションがそれによって上がったと思えばいい投資。結局するんだから。その時のためにって考えてあんまり自分を責めない方がいいよ」


吉川 「人類って愚かだ……」


魔王 「えー。愚かな人類どもよ! 都合の良い儲け話なんてのはないから耳を貸すな。あと思いやりの心を持って、ちょっと嫌だなって思う人にだって事情はあるんだからすぐに責めたりしないで、あと周りと比べて自分を落ち込ませることはないから。人間なんて運だから。一見羨ましいなって思ってる人にだって悩みはあるし、自分にだって良いところはあるから。そうやって生きていきましょう。じゃ、解散!」



暗転

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