ネイティブ

藤村 「グッド! なかなか上手だね。でもネイティブはそういう言い方しないんですよ」


吉川 「そうなんですか? 学校ではこう習ったんですけど」


藤村 「でしょうね。でもそれってネイティブの感覚からしたら、なんかおじいちゃんと話してるような感じなんですよ」


吉川 「そうなんだ。若い人は全然使わない感じ?」


藤村 「全然とまでは言わないけども、関係性にもよりますかね。すごく距離がある感じ。友達同士の会話では気持ち悪い。日本語で言ったら何だろ。『恐れ入ります』とか急に言われる感じ?」


吉川 「あー、友達同士でそれは変か。実際にネイティブははどういう風にいうんですか?」


藤村 「そうですね、この場合は。マザファッカかな」


吉川 「え。マザファッカ?」


藤村 「そうそう。だいたいそれで相手もわかるんで」


吉川 「それってダメな言葉じゃないんですか?」


藤村 「まぁ、かなりくだけた関係性だから。でもう今の若い人はそんなもんですよ」


吉川 「ボクなんかは絶対言っちゃいけない言葉として習った覚えがあるんですが」


藤村 「日本語でも仲間内で結構過激な言葉使うことあるでしょ。『バカじゃねーの、死ねよ』みたいな」


吉川 「あ、あぁ……。そんな感じで言っていいもんなんですか?」


藤村 「大丈夫ですよ」


吉川 「でももしそれで誤解されたらなんて言えばいいんですかね?」


藤村 「それで誤解されるようなことがあったら『マザファカ!』って言えばいいですね」


吉川 「変わってない」


藤村 「違います。これは罵倒の意味を込めて。冗談も通じないマザファカには丁度いいですから」


吉川 「本当にネイティブはそういうの?」


藤村 「言います。聞いたことありません? ネイティブの会話って8割がマザファカですよ?」


吉川 「そんなわけないでしょ」


藤村 「日本人の会話って8割が『どうも』じゃないですか?」


吉川 「そんなわけ……あるか?」


藤村 「どうも」


吉川 「あ、どうもどうも」


藤村 「どうもどうも」


吉川 「じゃ、どうも」


藤村 「どうも~」


吉川 「確かに通じる。マザファカってどうもなの?」


藤村 「そうです」


吉川 「断言したな。大丈夫? ネイティブの総意みたいな感じになっちゃってるけど」


藤村 「ネイティブだったらそう言いますよ」


吉川 「マザファカ」


藤村 「マザファカ?」


吉川 「マ、マザファカ」


藤村 「マザファカァ」


吉川 「マザファカ!」


藤村 「マザファカ!?」


吉川 「通じてるな。通じてる感じはするけど、内容はまったくわからないな」


藤村 「内容はマザファカなんで」


吉川 「マザファカて内容は別に伝えたくないんだよ。そんな言葉を対面で言いたくない」


藤村 「あとは勢いと感情の込め方だけですね。英語って結局それなんで」


吉川 「本当に結局それなの? 道に迷った時とか、注文をする時も?」


藤村 「そういう場合はアプリの翻訳を使えばいいんじゃないですか?」


吉川 「なんでだよ! ネイティブにつたわる英会話を教えてくれる感じじゃないの?」


藤村 「でもほら、あなたネイティブじゃないから。日本語非ネイティブの外国人が『どうも』って言ってきても芯の部分が伝わらないじゃないですか」


吉川 「だったらさっきのマザファカの応酬はなんだったんだ。ちょっと手応え感じちゃったのに」


藤村 「マザファカで会話できるようになったら、もうネイティブと言ってもいいですね」


吉川 「そこをゴールに見据えて頑張るモチベーションが湧かないよ」


藤村 「あとは相手がネイティブで何か言ってきた時のリアクションとして、これをいうと気持ちがいいってのが一つだけ」


吉川 「あるんですか、そんな丁度いいのが?」


藤村 「『欧米か!』って」


吉川 「何も伝わらないだろ」



暗転

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