しりとり

吉川 「しりとりのりから」


藤村 「りんご」


吉川 「ゴリラ」


藤村 「はい、ダメー。ゴリラなんていません」


吉川 「いや、いるだろ。ゴリラだよ。動物の。大きな猿の」


藤村 「日本にはいませんー」


吉川 「日本にも動物園にいるだろ。何だよその理屈」


藤村 「野生でいませんー」


吉川 「野生でいなくてもいいだろ。言葉として知られてば。しりとりってそういうものだろ!」


藤村 「それでいいの?」


吉川 「それでいいっていうか、それ以外のどういうルールがあるんだよ。いないからダメなんて話は聞いたことないよ」


藤村 「じゃあそれでいいよ」


吉川 「なんで渋々なんだよ。しりとりやったことないのか?」


藤村 「なんだっけ? ゴリラのラ? だったらランスハリ」


吉川 「ん? リ? リンボーダンス」


藤村 「スゴギチ」


吉川 「なにそれ、スゴギチって?」


藤村 「スゴギチだよ。何って言われても。スゴギチはスゴギチだろ」


吉川 「いや、知らないけど」


藤村 「日本にはないからな」


吉川 「日本にないって何なの? ものなの? 生き物なの?」


藤村 「スゴギチだよ!」


吉川 「何の何なんだよ。手がかりをくれよ」


藤村 「知らないの? スゴギチを?」


吉川 「知らない。初めて聞く言葉」


藤村 「まぁ、地球にはいないからしょうがないか」


吉川 「地球にないの? どういうこと? 生き物とかじゃなくて? 概念なの?」


藤村 「概念っちゃぁ概念だよ。スゴギチはスゴギチ以外の説明はないから」


吉川 「それみんな知ってる言葉?」


藤村 「みんなは知らないよ。俺は知ってるけど」


吉川 「どういうこと? お前が考えた言葉?」


藤村 「そうだよ」


吉川 「そうじゃないよ! ダメだよ、そんなの! 適当に新しい概念を出してきたら」


藤村 「新しくはない。昔考えたやつだから」


吉川 「そういう問題じゃないよ」


藤村 「でも日本にいなくてもいいって自分で言ったじゃん」


吉川 「ある言葉でだろ! 互いに知ってないと成立しないよ。しりとりなんだから。正直、その前のランスハリもよくわからなかったよ」


藤村 「あれは割と最近考えた言葉だけど」


吉川 「ふざけんなよ! 自信たっぷりに言われたから俺が知らないだけかと思って通しちゃったよ」


藤村 「一回通ったから、もうそのルールで通るってことでしょ。今更覆らないよ?」


吉川 「覆る覆らないじゃないんだよ。ない言葉はダメだろ。それを言い出したら無限だよ」


藤村 「無限ではないよ? 無限の概念理解してる?」


吉川 「そりゃ無限じゃないけど、ほぼ無限って言っていいくらいいくらでもあるだろ」


藤村 「ほぼ無限って言葉はないんだよ。無限か有限かなんだから」


吉川 「言葉に厳しい! 勝手に新しい言葉考え出すくせに」


藤村 「当たり前だろ。新しい言葉を生み出すためには既存の言葉を知っていないといけないんだから。端的にそれを示す言葉がないなと思ったら新しい言葉を作るんだよ」


吉川 「そんなクリエイティブなことしてたの? じゃあスゴギチはなんだよ?」


藤村 「面倒くさいな。本当に聞きたいのか? ただ因縁つけてるだけじゃないの?」


吉川 「だってあるんだろ、お前の中では。その理屈を教えてくれないと適当にでっち上げたと言われてもわからないじゃん」


藤村 「だからスゴギチはアレだよ。遮二感が非常にコンセスティックな時に冷嘆の蘇を上げる言葉だろ」


吉川 「うん。じゃあもういいよ、それで」



暗転


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る