石積み

藤村 「石積みってのをやってる人がいてさ。知ってる?」


吉川 「石積み? 知らない。城を造る時のやつ?」


藤村 「そんな壮大なものじゃない。アートなんだよ。自然石を縦に積み上げていくの。いくつも」


吉川 「それはそこら辺の石?」


藤村 「そうそう。加工してない自然石。だから平らじゃないの。丸かったり尖ったり変な形でもそれを積んでいく」


吉川 「なんのために?」


藤村 「アートだから! なんのためとかそういう矮小な考えでやってない。しいていうなら人類の可能性への挑戦だよ」


吉川 「しいてでっかく言ったな。あー、今ネットで見たけど、すごいね。これ接着剤とか使ってないんだよね?」


藤村 「そういうのじゃないから。もう置いてあるだけ」


吉川 「だとしたらすごいな」


藤村 「それを見てさ、俺はできるなって思ったの」


吉川 「ほぅ。すごいじゃん」


藤村 「どう考えてもできるんだよね」


吉川 「じゃ、やろうよ。あそこの河原、石いっぱいあるところあるじゃん?」


藤村 「あるね」


吉川 「やってみよ。俺もやりたい」


藤村 「やってはみないな」


吉川 「え。みないの? なんで? できるんだよね」


藤村 「できる。完全にできるね。確信がある」


吉川 「だったらやってみよう」


藤村 「やってみようっていうのはさ、できるかできないかわからないレベルの人がすることでしょ。俺は完全にできるから」


吉川 「だから、やればいいじゃん」


藤村 「そんなレベルじゃないの。完全にできる。もうすでにできてる」


吉川 「できてはないだろ。やったことあるの?」


藤村 「ないよ」


吉川 「ないのに? 何その自信。ないならわからないだろ」


藤村 「自分のことは自分が一番良くわかるんだよ」


吉川 「そういうものとは違うだろ」


藤村 「胸に手を当てて考えてみたけど、できるなって思ったよ」


吉川 「胸に手を当てて考えたところで過去の経験は関係ないだろ。これから起こる未来のことは胸の中にひっそりとしまわれてないんだよ」


藤村 「明らかにできることに対して試してみようとか思わないじゃん? コップで水を汲むってことはできることだろ。それをわざわざやってみようよ、と言い出すのは意味不明だろ」


吉川 「コップを水で汲むのはやったことがあることだろ。石積みは未経験なんだろ。全然違う」


藤村 「じゃあ徳利で水を汲むってのでもいいよ。それはやったことない。でもできるよ」


吉川 「お前は石積みっぽい何かをしたことあるの? 似たようなバランス感覚の精度が求められる挑戦を」


藤村 「あるわけがない」


吉川 「あるわけがないの? なら、そもそもその自信はどこから来たの?」


藤村 「自信とかじゃないんだよ。できるってわかってることだから」


吉川 「自信だろ。実績ではないんだから」


藤村 「だからまだこの世の中には具現化されてないけど、形而上ではできてる」


吉川 「なんだよ、形而上の石積みって。それは単なる想像じゃないの?」


藤村 「入念なシミュレーションだよ」


吉川 「想像だろ! 全部頭の中でやった机上の空論だろ」


藤村 「普通のできてる感じゃないんだよ。もう明らかにできすぎてる。シミュレーションでここまでできてるんだったら現実でなんて余裕だよ」


吉川 「一回もできてないだろ。まず現実でやれよ」


藤村 「できすぎ感がすごいんだから。頭の中でサクラダファミリアを建てられるやつにレゴやらせるか?」


吉川 「それはそれで別の能力だろ。できるかどうかわからないよ」


藤村 「俺は何度鬼に邪魔されたってできてるんだぞ?」


吉川 「シミュレーション、賽の河原なの?」



暗転


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