モンスター

吉川 「ここは俺に任せて、お前たちは先を急げ!」


怪物 「キィイイイイ!」


吉川 「……」


怪物 「……」


吉川 「……」


怪物 「……行った?」


吉川 「かな」


怪物 「何の話だっけ? あ、逆にそっちって出世のシステムみたいなのは決まってるの?」


吉川 「出世のシステムと言うと?」


怪物 「だからその、一般の冒険者から勇者になるのって一握りじゃない? どうやったらなれるとか」


吉川 「う~ん。これもね、実は不透明な部分が多くて。どうやったらなれるという確定したなにかはないな」


怪物 「そっちもないんだ?」


吉川 「モンスター側は完全に実力社会じゃないの? 強いやつが偉いんでしょ」


怪物 「そうとも言えない。ぶっちゃけ戦闘力だけ見たら魔王より上のやつもいる。そのレベルになるとどっちもバケモンではあるけど……」


吉川 「この醜いバケモノめ! ここは俺に任せて、お前たちは先を急げ!」


怪物 「キィイイイイ!」


吉川 「……」


怪物 「……」


吉川 「……行ったな」


怪物 「醜いって言った?」


吉川 「違う違う。そっちがバケモノとか言ってたから引きずられちゃって」


怪物 「一応言っておくと、モンスターの中ではワイは見た目としては上位よ?」


吉川 「だと思う。それはもう」


怪物 「一応ね」


吉川 「何の話だっけ? あ、魔王。じゃなにが魔王になる要因なの? 王ってくらいだから血筋?」


怪物 「血筋は関係ないね。っていうか、モンスターは増え方が種族によって独特だから血筋という概念自体があんまりない。それは完全に人間の考え方。親とか子とかが確定してるってことでしょ?」


吉川 「そうそう。人間はね。人間と言うか亜人種も含めていわゆる俺たちっぽい生き物は」


怪物 「強いて言えば今の魔王がすごいと言われてるのは管理能力かな。適材適所っていうか。ほら、モンスターってすぐ仲間同士でいざこざ起こすから」


吉川 「そうなの? あんまり見たことないな。……あ、待って。この薄汚いモンスターめ! ここは俺に任せて、お前たちは先を急げ!」


怪物 「キィイイイイ!」


吉川 「……」


怪物 「……」


吉川 「……危なかったな」


怪物 「薄汚いって言った?」


吉川 「言ってない」


怪物 「言ったけど? 聞いてたけど!」


吉川 「違う違う。薄着だなって。軽装というか。モンスターってあんまり着込んでないじゃん?」


怪物 「本当? 信じるよ?」


吉川 「それより魔王の管理能力ってどういう意味?」


怪物 「あぁ。モンスター同士のいざこざを見たことないってのは魔王の管理が優れててぶつかり合わないように上手いことできてるから。だいたいモンスターって自己主張強くて自分のことしか考えないやつばっかりなんで」


吉川 「確かに他人のこと考えてるモンスター見たことないな。あんたは違うけど」


怪物 「ワイだって無駄な戦いで怪我とかしたくないだけだよ。こうして時間稼いでるのが一番いい」


吉川 「話せるなぁ!」


怪物 「お互い上手いことやらないとな。あ! 人!」


吉川 「このモンスター! 臭いんだよ! 死ね! ここは俺に任せて、お前たちは先を急げ!」


怪物 「キィイイイイ!」


吉川 「……」


怪物 「……」


吉川 「……行ったか」


怪物 「臭い? そんなに?」


吉川 「違う。そういう意味じゃなくて。人間臭いと言うか。褒め言葉みたいな意味合いで言っちゃった」


怪物 「本当に褒めた? あのさ、どっちかというと人間の方がワイらからしたら臭いからな?」


吉川 「そういうものかな」


怪物 「醜いし。結構こっちも言わないだけでストレスはあるよ?」


吉川 「あぁ。でもそういう意味じゃないんだよ。リスペクトしてるから」


怪物 「あ、人間だ」


吉川 「このクソ雑魚モンスター! 汚らしい怪物! ここは俺に……、え? いない」


怪物 「いないね」


吉川 「人間来たって」


怪物 「言っただけ。クソ雑魚って言ったよな?」


吉川 「違う。あの、人間の間で褒め言葉的な」


怪物 「クソ雑魚が?」


吉川 「クソ雑魚っていうか、その。わざと悪目の言葉を使って仲良さをアピールするような関係性ってあるわけで」


怪物 「汚らしいも?」


吉川 「来たらしいって言ったんじゃなかったっけな? 人が来たらしいと思ったから」


怪物 「あ、人が!」


吉川 「ここは俺に任せ……。またいないじゃん。嘘でしょ」


怪物 「ガアアア!」


吉川 「うわっ! ちょっと! 誰か! 誰か、ここは俺に任せないでくれー!」



暗転

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