整体

吉川 「まずどこか気になるところとかあります?」


藤村 「気になるところですか?」


吉川 「普段の生活で、ここが痛いとか、ここが困ってるとか」


藤村 「あえていうなら人間関係でストレスが多いことですかね」


吉川 「あの、整体なんで。ストレスによる身体の違和感はなんとかできますけど、人間関係はどうにもならないです」


藤村 「どうにもならないですか? 気を利かせて暗殺とかしてくれません?」


吉川 「そんな時代劇の按摩師じゃないんだから。身体のことで問題はないですか?」


藤村 「そうですね。感度がものすごく良いんですよ」


吉川 「感度? それってどこの? 患部のことですか?」


藤村 「感度です。めちゃくちゃ感じちゃうんです」


吉川 「それは、良いことだからいいんじゃないですかね? ちょっとこっちでどうにもできないというか。感度良すぎて整体に来る人います?」


藤村 「整体に来た結果感度良くなっちゃうっていう動画は見たことあります」


吉川 「それはアレだろ! ああいうやつだろ! そういうお店じゃないんだよ」


藤村 「じゃあ肩かな。右肩が痛い時あるんですよ」


吉川 「右肩ですね、ちょっと見ますね。ちなみにどんな時に痛いですか?」


藤村 「ムカつくやつを殴り殺す時あるじゃないですか? そういう時とかたまに」


吉川 「ないですね。立ち入ったことを言いますけど、ムカついたやつ殴り殺さない方がいいですよ?」


藤村 「そうですか? そんなこと言われたの初めてだなぁ」


吉川 「確かに私もそんな事を言ったのは初めてだけども。遠回しに注意してた人は多いと思います。ちょっと関節のこの部分が張ってますね」


藤村 「イダダダ! 痛いです!」


吉川 「やっぱりここですね。肩って関節が五個くらいあるんですよ」


藤村 「痛いって! ムカつくな」


吉川 「ちょっと待って。ムカつかないで。やめます」


藤村 「やめないでいいです。ちょっとムカついたけど殴り殺しませんから。そう言われたんで」


吉川 「言われたから? 言われなくてもダメですよ、本来は」


藤村 「あー、でもめちゃくちゃ楽になってる! ほら! いくらでも殴り殺せそうなほど!」


吉川 「そのためじゃないので。身体を良くするためにやったんで。その目的はやめてください」


藤村 「あと腰も。これは殺す殺さない関係なく痛いですね」


吉川 「普通は関係ないですね。そういうことするタイミングは一般的にはないから。でしたらここを」


藤村 「あ、効いた! 全然楽!」


吉川 「早いな。ちょっと触っただけなのに」


藤村 「なんか若返った感じ。今なら凶暴なサモア人ともやりあえそう」


吉川 「そんなに? そこまでのことやってないですよ」


藤村 「うぉ! どんどん効いてくる!」


吉川 「触ってないですけど」


藤村 「うおおおお! 効きまくってる! やばい。潜在能力が呼び起こされて戦闘力が10倍くらいになってる」


吉川 「ナメック星の長老じゃないんだから。そういう能力はないんですよ」


藤村 「効いちゃってるな。ほら見て、この血管の浮き出よう」


吉川 「感度良すぎるな。なんか目もバッキバキで怖い」


藤村 「なんかアレもバッキバキです!」


吉川 「いいよ、アレの話は。そういうお店じゃないんだって」


藤村 「この施術台の肌触りも最高です!」


吉川 「こっちの手柄じゃないんだよ。そんなの褒められても困る。肌触りは売りにしてないから」


藤村 「どんどん高まってきました!」


吉川 「もう勝手にやってるだけじゃん。なにもしてないのに。二度と感度がいいお客さんを施術したくない」


藤村 「ありがとうございました。これならムカつかないやつでも殺せそうです!」


吉川 「大変なことをしでかしてしまった……」



暗転

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