服屋

藤村 「すみません、これ他のサイズってあります?」


吉川 「あ、サイズですか? あると思いますよ。大きい方ですか?」


藤村 「いや、実はですね。今度うちの妹が結婚することになりまして」


吉川 「それはおめでとうございます」


藤村 「で、旦那さんになる人に会ったんですけど、それがボクなんかとは違って背がスラーっと高くてですね」


吉川 「あぁ、はいはい。プレゼント用ですか」


藤村 「それがすごくしっかりしていて、仕事も大手企業でバリバリやってるんですよ」


吉川 「そうなんですね」


藤村 「それに比べてボクは毎日油まみれで働いてるだけで」


吉川 「あぁ、はい」


藤村 「あ。でも部下とかもいるんですよ。あいつら全然働かないんだけど」


吉川 「あの、大きいサイズの方でよろしいですか?」


藤村 「最近の若い子は入ってもすぐ辞めちゃうんで。こっちは仕事のことだけ考えたいのに」


吉川 「はい。で、サイズの方お探ししてきますね」


藤村 「すみません。違うんですよ」


吉川 「あ、はい? 大きい方じゃなくて?」


藤村 「違うんですよ、ボクは別に妹の旦那さんと比べて惨めな気持ちになったりしてるわけではないんですね。そりゃ油まみれで働くのが嫌だって人もいるだろうけど」


吉川 「ええと。そちらの大きなサイズをお求めということでよろしいですね?」


藤村 「店員さんはどう思います?」


吉川 「え。私ですか? ご本人様用であればそのサイズでも構わないと思いますけど、最近は大きめが流行ってるのでそういった点ではもうワンサイズ大きくてもいいかと思います」


藤村 「ですよね。いや、ボクもね。似たようなことを思ったことあるんですよ。昔は自分がダメな奴なんじゃないかってずっと思い悩んだりして」


吉川 「何の話ですか? 服の話でよろしいですか? 当店は衣服のお店なので」


藤村 「わかります。厄介なクレーマーとかいますよね」


吉川 「あぁ、はい」


藤村 「あ。ボクはクレーマーじゃないですよ? 違いますよね?」


吉川 「まぁ、クレーマーではないですね。ただその、私も他の業務がありますので」


藤村 「マジでクレーマーって迷惑ですよね! 本当に困るんだわ、ああいう輩は。結局店員相手にストレス解消してるだけなんですよ」


吉川 「そうですね。あの、もうよろしいですか?」


藤村 「あ! それでね、サイズなんだけども」


吉川 「はい」


藤村 「これって思ったんだけど、服のサイズって大きくなればなるほど布とか使う材料費が多くなるわけじゃない? でも値段が一緒なのってどうしてなのかな?」


吉川 「さぁ、そういう事に関しましては」


藤村 「考えたことないですか? 服屋で働いてて。だってSとXLじゃ倍くらい違うよ? これなんか化繊だから、石油から作られてるんですよね。化繊て、知ってます?」


吉川 「はぁ、聞いたことはあります」


藤村 「石油なんですよ。最近は環境だ何だすごいうるさいんですけど」


吉川 「いい加減にしてくださいよ。こっちも仕事で忙しいんだから」


藤村 「え。急にどうしたの?」


吉川 「急にじゃないでしょ。なんかしょうもない世間話をダラダラダラダラと」


藤村 「クレームとかつけたつもりはないんですけど」


吉川 「クレームじゃないけど、世間話対応も十分迷惑だよ! こっちは介護でやってるわけじゃないんだよ」


藤村 「すみませんでした。じゃあここからこっちまでの服、全部で」


吉川 「全部を何!? あんたに買えるの?」


藤村 「はい。石油王なんで」


吉川 「そんなミスリードあるか?」



暗転

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