半分

吉川 「被告はSNSを使用し、面白半分に原告を誹謗中傷いたしました」


藤村 「異議あり! 面白半分というのは原告側の勝手な言い分です!」


吉川 「では伺いますが、一体どのような気持ちでこのような誹謗中傷のポストをされたのでしょうか?」


藤村 「面白全部です」


吉川 「面白全部? え。全部? なにそれ?」


藤村 「面白半分などでは決してありません。面白全部です。むしろ全部面白い。面白さ以外の要素はまったくありません」


吉川 「ちょっと待ってください。何を言ってるかわかってるのですか? この件の誹謗中傷に対して訴訟を起こされていることをご理解されてますか?」


藤村 「もちろんです」


吉川 「原告としてはこちらの発言によって多大なる精神的苦痛を味わったのです」


藤村 「お言葉ですが、それはこちらも同様です。面白全部で挑んだ発言がスベるというのはどれだけの精神的苦痛なのかおわかりになりますか?」


吉川 「全然わからないです」


藤村 「ただのスベりじゃないですよ? こいつはバズるぞ、とにんまりしながらした投稿が無反応。もう何日もご飯を食べられませんでしたよ」


吉川 「それは自業自得なのでは?」


藤村 「もちろんです」


吉川 「自覚あるのか。じゃあなんで対抗してきてるの。おかしいでしょ」


藤村 「あ、おかしかったですか? 今の? どのあたりが面白かったですか?」


吉川 「面白いっていう意味で言ってないよ! おかしいって、変だという意味だよ」


藤村 「あぁ。そっちの。いや、でも今のは面白一割くらいだったのでほぼダメージなしです」


吉川 「あなたの面白に対する力配分はどうでもいいんだよ。面白半分っていうのはそういうことじゃないから」


藤村 「でもそれは私の本当の面白半分を知らないからじゃないですか? 勝手に決めつけて。きちんとこのくらいが半分なんだと理解してもらえれば、あの投稿が面白全部だったということも明らかになると思いますが?」


吉川 「それを明らかにしたいと誰も思ってないんだよ。本筋から外れすぎてる。そもそも全部だろうと半分だろうと、面白でやることが間違ってるんですよ」


藤村 「つまらない方がいいってことですか?」


吉川 「そんなことは一言も言ってない」


藤村 「確かに。おっしゃる通りつまらな半分で発言をしたことはなかったんですけど、意外とそっちの方が肩の力が抜けていい意味でバズる可能性もありますね」


吉川 「面白かつまらなかの二元論で語るのをやめてください。あなたの笑いの感度の話をしているわけではない!」


藤村 「私としてはそれこそが大事なわけです。誹謗中傷などまったく意識をしてません」


吉川 「だから意識しないでもやってたらダメなんですよ。それが問題なんだから」


藤村 「でもウケさえすればチャラじゃないですか!」


吉川 「違いますよ? なに、その怖い考え。ウケようとスベろうとチャラにはなりませんよ。誹謗中傷は誹謗中傷ですから」


藤村 「そちらにとってはそうかも知れませんが、こっちの気持ち的にはチャラですし、なんだったらお釣りが返ってきたくらいの気持ちなわけです」


吉川 「だからあなたの気持ちだけで物事を語らないでください。実際に傷ついている人がいてそれが問題になってるわけです。被告の身勝手な感情でどれだけ傷ついたかを考えてください」


藤村 「ではもう一度チャンスを下さい。次はバズるような完全に面白いポストをします。お約束します!」


吉川 「なんにもわかってない! そもそもあれだけスベったやつがなに自信満々に言ってるんだよ」


藤村 「いいえ。次は伸びしろ半分でいきます」


吉川 「ないだろ、伸びしろ!」



暗転

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