藤村 「あなたは泉に斧を落としてしまいました。さてどうする?」


吉川 「どうって、泉から女の人が出てきて……」


藤村 「え、なんで!? 女の人が!? え、ずっと泉の中にいたってこと? 呼吸は?」


吉川 「いや、だから女神的な存在だから」


藤村 「人ですらないの!? なにそれ。そんな答え想定外すぎるわ。普通泳いで拾いに行くとか諦めるとか、そういうのしかなくない? どういう心理だとそうなるんだよ。怖い。俺の手には負えない」


吉川 「だってそういう話じゃ?」


藤村 「どういう話だよ。全然理解できない。じゃあコップの中に水が入ってるとして、どのくらい入ってますか?」


吉川 「あ、なに? 心理テストみたいなものなの?」


藤村 「逆に何だと思ってるんだよ? 女の人が泉から這い出てくるとか意味わからなすぎて怖い。なんか抑圧された禍々しいものが心の奥にあるんじゃないの?」


吉川 「違うよ。童話だと思うじゃん」


藤村 「は? じゃ、コップの中からも女の人でてくるの? 小っちゃい女の人が。怖ぁ!」


吉川 「違うよ。心理テストと思わなかったから」


藤村 「それでいいだろ。これは心理テストだから理想の人間が答えそうな答えを言おうなんて考えるのは心理テストとしてまったく意味がない。そう思わないで素直に思った通りの答えをいうから隠されてたものが浮き彫りになるんだろ。なんか、女の人が出てくるとか」


吉川 「何でも女の人が出てくるとは思ってないよ!」


藤村 「まぁ、ちょっとビビったけど、それも答えだから」


吉川 「そういう意味で答えたわけじゃないんだけど」


藤村 「じゃあ次。おばあさんが川で洗濯をしていると川上からドンブラコと流れてきたものは……」


吉川 「大きな桃だろ」


藤村 「大きな桃!? 普通の桃じゃなくて? 大きな? どのくらい大きいの?」


吉川 「子供が入ってるくらいの」


藤村 「子供が!? 桃の中に? おいおいおい。ちょっとマジで手に負えないレベルの恐怖が」


吉川 「違うだろ。みんなそう答えるよ!」


藤村 「普通魚とかさ、洗濯をしていたというイメージから上流で他の人も洗濯をしていてその衣類が流れてきたとか答えるもんじゃない? 桃? 大きな? 人間の入った? どうやって入れたの?」


吉川 「なんか知らないけど最初から入ってる桃なんだよ!」


藤村 「ちょっと気持ち悪い。どうやったら人間の子供を桃の中に閉じ込めるなんてサイコな考えできるの?」


吉川 「俺が考えたわけじゃないよ!」


藤村 「え。自分以外の意志が? なにか宇宙からの電波とかそういうもの?」


吉川 「桃太郎だろ! 知らないのか。桃太郎を」


藤村 「それは知ってるけど。じゃあさっきのコップの中の水から女が這い出てくるって話はコップ太郎なの? 何その話?」


吉川 「知らないよ! そんな話は俺も知らない。勝手に総合して俺が独自の見解を述べたみたいにするなよ」


藤村 「じゃあこれは? 王子様は片方だけ残されたガラスの靴を頼りに国中の娘たちの中から女性を探そうとしました」


吉川 「知ってるよ、その話も! なんか言ったら変な心理みたいに言われるから何も言えないけど」


藤村 「そしてついにシンデレラがあの時の女性だということが判明し、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


吉川 「話終わっちゃったよ。なんなんだよ、心理は!?」


藤村 「その反応からわかるのは、人の幸せが嫌いでしょうがないという心理かな」


吉川 「うるせえな!」



暗転

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