新入社員

吉川 「そもそも、やる気はあるのか?」


藤村 「ありません」


吉川 「え。いや、やる気はあってくれよ。なんでそんな当然のように答えてるの? 仕事だよ?」


藤村 「仕事は仕事です。別に好きでやってることでもないのでやる気なんてありませんよ」


吉川 「そうか。えーと、君たちの世代はそういう考え方なのかもしれないけど。でも仕事は一生懸命やらなきゃダメじゃない?」


藤村 「なぜですか、仕事に過ぎないのに」


吉川 「あー、そういう考えなのか。周りの人は一生懸命やってるよ? 足並みを揃えないと迷惑がかかるとか思わない?」


藤村 「みんな崖から飛び降りてるんだからお前も飛び降りろってことですか?」


吉川 「そうじゃないよ。でも真面目に取り組むのは社会人として当然だとは思わないか」


藤村 「そんなルール誰が決めたんですか?」


吉川 「これはルールじゃなくて常識だよ」


藤村 「スパルタでは厳しい命の危険を伴う教育が常識とされてましたが、あなたはその常識を受け入れるんですか?」


吉川 「ここはスパルタじゃないもん。スリーハンドレッドみたいなこと言わないでよ」


藤村 「そもそもやる気を評価する仕組みがこの会社にあるんですか? 評価しないものをやれと言うのは社会人としておかしくないんですか?」


吉川 「結構しっかりと返してくるな。やる気を評価する仕組みはなくても、やる気の無さは減点になるよ。それはわかるよね?」


藤村 「仕事であるなら労働生産性で評価すべきではないですか? やる気がなくても成果を出していれば減点されるいわれはないと思いますけど」


吉川 「もちろんそうだよ。ただほら、今のあなたは成果を出してないからやる気を問われてるわけで。やる気だけを指摘してるわけじゃないんだよ」


藤村 「でもこの時間はどう評価されるんですか? 私もあなたも何も成果が上がっていない。こんなことに時間を使うならば他のことをするべきじゃないですか?」


吉川 「だから成果を上げるために、あなたの意識を変えようと時間を使ってるのだけど」


藤村 「変わりません。むしろやる気は下がります。これでやる気上がると思ってるんですか? この時間は会社にとって損失でしかないですよ。なんで損失を生み出しておきながらそんなに無自覚でいられるんですか?」


吉川 「こっちを責めるターンに入った? 損失かどうかは君次第だろ」


藤村 「はい」


吉川 「はい、じゃないよ。損失にならないように今後心がけてよ」


藤村 「無理です。損失になります」


吉川 「無理ってことはないでしょ。仕事だよ?」


藤村 「もちろん仕事です。プライベートなら損失を出すわけないじゃないですか」


吉川 「おいおい、言い切ったな。じゃあ逆に君はどうしたら生産性が上がるの?」


藤村 「それを考えるのが管理職の仕事では?」


吉川 「確かにそういう面はあるけど、それはあくまでやり方次第で生産性を上げてくれる人に対してアプローチする部分であって、絶対に生産性をあげないぞと思ってる人間に対してはできないよ」


藤村 「難しい仕事だから放棄するというのですか。もちろん上司がそのつもりなら私もそれに倣うまでです」


吉川 「いちいちこっちに責任がある風にしてくるな。そんな態度の人間と一緒に仕事なんてできないよ」


藤村 「やる前からそんな調子でどうするんですか。もっとやる気を出してくださいよ!」


吉川 「返し技の達人かよ!」



暗転


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