変身

吉川 「カフカの変身って知ってる?」


藤村 「聞いたことはある。ある日起きたら巨大な虫になってたってやつだろ」


吉川 「読んだの?」


藤村 「読んではいないな。そこしか知らない。虫になったあとの経緯はまったく」


吉川 「父親にりんごぶつけられて死ぬんだけどね」


藤村 「え、そんな話なの? なんか虫の身体で冒険して仲間たちと悪い魔女のところまでたどり着いて、変身は解けなかったけど大切なものに気づいた。みたいな話じゃないの?」


吉川 「ディズニーじゃないから。ただ死ぬ」


藤村 「じゃあ仲間になってくれる月夜の晩に狼になるやつと、自尊心が強すぎて虎になったやつは?」


吉川 「夢のコラボレーションじゃん。そんな変身仲間で旅をする話じゃないよ。面白そうだけど」


藤村 「ロボットに変身するトラックに乗ってね」


吉川 「トランスフォーマーも? もはやアベンジャーズじゃん」


藤村 「そう考えると虫だけなんか戦闘力低いな。別に飛べないんだよね?」


吉川 「飛べない。這い回ることはできる。便所虫みたいなやつだと思う」


藤村 「意外とそういうのがトリッキーな技を使うんだよ。だって狼と虎って割とファイトスタイル似てるじゃん? 見せ場がかぶるんだよ。その点、虫は被らないぜー」


吉川 「勝手にお前が選出したメンバーのくせに因縁つけてくるな。でも変身のザムザは何の役にもたたない虫ってところが大事だから」


藤村 「虎も狼もスピードタイプだからパワータイプの能力者が欲しいところ」


吉川 「別に能力者じゃないだろ。変わっちゃって困ってる面子なんだから」


藤村 「ゴリラに変身する寓話とかないの?」


吉川 「寓話が作られてた時代はまだゴリラとかメジャーな動物じゃなかったからな。意外とゴリラが知られたの最近なんだよ」


藤村 「あと知性タイプが欲しいな。フクロウとかに変身するの」


吉川 「フクロウもいないな。そもそもフクロウの物知り博士感はどこから来たんだ」


藤村 「パーティの構成からしてパワーと知性が欲しいよ」


吉川 「ハルクは? 超人ハルク。あんな風になっちゃったことを本人は困ってるし」


藤村 「アメコミとか特撮とかを入れちゃうと、もう変身し放題になってしまう。そこはちゃんと世界観を守るために童話とかおとぎ話から欲しいところだよ」


吉川 「何の世界観? お前が勝手に言ってるだけの話なのに」


藤村 「神話とかだと花に身を変えたとかあるよな」


吉川 「クシナダヒメが櫛になったとか」


藤村 「櫛。これだけのオールスターの中に櫛いてもしょうがないだろ。さるかに合戦にうんこいるのと同じくらい浮いてる」


吉川 「あ、清姫は? 安珍・清姫伝説の」


藤村 「あー、なんだっけ? ドラゴン?」


吉川 「一応蛇かな。ただ飛んだり火を吐いたりするけど」


藤村 「完全にドラゴンじゃん。パワーバランスが悪すぎる。そいつ一人でいい。しかもヤンデレだろ、集団行動に向かなすぎる」


吉川 「蛇だったらタケミナカタが腕をもぎ取られて蛇に変身したとかなかったっけ?」


藤村 「そのくらいの蛇ならいいかもな。ただパワーでも知性でもない。蛇はトリッキー担当じゃん。それ取られると虫のザムザはいよいよすることなくなる」


吉川 「チームのムードメーカーでよくない?」


藤村 「なんにも役に立たないザムザは、変身後のパーティでもなんにも役に立ってないのか。でもその役に立たなさこそ彼がはじめから持っていた輝きなのかもしれないな。ディズニーならそういう話になる」


吉川 「勝手にディズニーを標榜するなよ」


藤村 「あとポリコレの関係で女性も入れなきゃいけないから。一応ヒロインも入れておくか」


吉川 「全員変身したあとの話なのに。コンセプトがブレる」


藤村 「いや、その女性は変身が解けると鶴になる」



暗転

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