読心

吉川 「さて次の秘めたる特技の持ち主はどんな方でしょうか?」


藤村 「エントリーナンバー3番。千葉県から来ました藤村です」


吉川 「はい、藤村さん。伺いますがあなたの秘めたる特技とは?」


藤村 「人の心が読めることです」


吉川 「おぉ~! それは本当だったらすごいですね。では早速披露していただきましょう」


藤村 「チッ、またしょうもないやつが来たよ。今どきこんなの目立ちたいだけのバカと羞恥心のないバカしかこないんだから。って、えぇ!? まさか本当に俺の心が読めるのー!?」


吉川 「……ん? 今のはどういう? どなたかの心を読んだということですか?」


藤村 「おいおいおい! 完全にオレの心が読まれてるじゃん。まずい、動揺してるところを見せたら余計悪くなる。どうしよう、とりあえず審査員に振るか?」


吉川 「藤村さん。今読んでるのは誰の心なんですか?」


藤村 「こうやってとぼけておけば動揺してることは悟られないだろ。こいつ余計なことだけは言うなよ。ちょっとスタッフも適当になんとか止めて連れ出せよ、こんなやつ」


吉川 「あの、ひょっとしてこれは私の心を読んでるという設定でやってるんでしょうか? ちょっと無理がありませんか?」


藤村 「まずはこうやって否定しておいて、あとあと嘲笑する感じで客を巻き込めばどうにかなるだろ。どうせ客なんてバカばっかりなんだから。こっちがスベってる体で見せれば自分で判断することもなくスベってるって思い込むしな」


吉川 「やめてください。一旦ちょっとやめてもらえます?」


藤村 「やべ、本音の焦りが出ちゃった。どうすりゃいいんだよ、もうこれ以上読むなよ!」


吉川 「違いますからね? 皆さん、私じゃないですよ? 本当にこんな事は考えてません」


藤村 「あ~あ。面倒くさいやつが来ちゃって今日の収録長引きそうだな。早く家帰って熟女モノのAVでも見たいよ」


吉川 「見ないよ! 熟女モノなんて。いや、熟女が悪いというわけではなくてですね」


藤村 「あっぶねぇ! たまたま気分が熟女モノだっただけで熟女モノだけが好きと思われるところだった。違うジャンルも言わなきゃ。えーと、違うジャンル違うジャンル」


吉川 「そういう意味で焦ってないだろ! 他のジャンルを言えば助かるなんて思ってないよ。どんな心理なんだよ」


藤村 「今どきポリコレとかうるせーからな。全部のジャンルが好きですって多様性をアピールしないとMC降ろされちゃうし」


吉川 「全部のジャンルのAVが好きって発言でMC続けられると思ってるのやべーだろ。もういい加減にしてください」


藤村 「ふぅ。やっと出てこれたぜ」


吉川 「終わりました? いいですか、藤村さん。嘘はまだしも、他人を傷つけるようなものは特技ではありませんからね?」


藤村 「俺はこの男の第二人格」


吉川 「第二人格!? 私の? いないけど? いや、さっきのもいないけども!」


藤村 「抑圧されてたが、ゴタゴタのついでにようやく出てこれたぜ」


吉川 「人の心の中で物語を勝手に展開させるなよ! なんだよ、第二人格って」


藤村 「まったくこいつの第一人格は人の目ばっかり気にしてクソみたいなやつだぜ」


吉川 「そうでもなかっただろ! 結構ひどいこと言ってたよ。いや、私のじゃないけども! 私はそんなこと考えてないけど!」


藤村 「ただAVの趣味は割といい」


吉川 「しょーもないところで共感し合うなよ! 私のじゃないからな」


藤村 「ここからは俺がメインの人格とならせてもらう。さぁ、審査員の方いかがでしたか?」


吉川 「禍々しく出てきたくせに進行はきちんとやるのかよ! だったら第二人格にならなくてよかっただろ」


藤村 「こんな感じですかね。ちょっと緊張しちゃってあれでしたけど」


吉川 「また違う感じになってる! 誰なんだよ、お前は!? 何人格だよ」


藤村 「藤村ですけど」


吉川 「今は心読んでないのかよ!」



暗転

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