説明

吉川 「藤村くん。プロジェクトの話なんだけど、どうしてこういうやり方になったの? こんなコストの掛かるやり方にこだわる必要はあるのかな」


藤村 「あ、はい。そこですね。まずですねご存知かどうかわかりませんが、カメレオンの舌っていうのは伸びるスピードがチーターが走るスピードと同じくらいなんですよ」


吉川 「あぁ? うん」


藤村 「なので了承してください」


吉川 「うん。え? なにが? ちょっと待って。なにが?」


藤村 「どうしてもコストは掛かってしまうので」


吉川 「いや、今の説明あった? なんかごめん。全然よくわからなかった」


藤村 「えーと、そうですか。カメレオンはわかりますよね?」


吉川 「あの、なんか色が変わるトカゲみたいのでしょ」


藤村 「はい、そうですそうです。なのでしかたないということで」


吉川 「なに!? カメレオンがどうしたの?」


藤村 「舌です。舌がめちゃくちゃ伸びるんですよ」


吉川 「ちょっと待ってよ。そもそもプロジェクトとカメレオンにどういう関係があるの?」


藤村 「ま、そういう風に言われちゃうと関係はないですけど」


吉川 「ないの!? なになに? 何の説明をしようとしてるの?」


藤村 「逆にいえば関係あるかないかということ自体が関係ありますか?」


吉川 「んん!? 関係が、なに? 関係ある話をしてくれる?」


藤村 「関係ある話と、このプロジェクトに関係があるかどうかの問題は関係ありますかね?」


吉川 「一個もわからなくなってきた。何が言いたいの?」


藤村 「言いたいことはないです。リーダーが聞きたいことがあるから話しかけてきたのでは?」


吉川 「うん、そう。コストが掛かりすぎることへの説明をお願いしたいんだけど?」


藤村 「でしたら、これはご存知ですかね? コモドドラゴンの唾液なんですけどものすごい細菌がいるので噛みつかれるとその毒でやられるんですよ」


吉川 「知らない」


藤村 「あ、そうですか。コモドドラゴンはご存知です?」


吉川 「なんかトカゲみたいのでしょ?」


藤村 「そうですそうです。それです! ということなので」


吉川 「なにが!? ということではないだろ? 今聞き逃さないように一個ずつ注意して聞いてたけど、コモドドラゴンの唾液の説明以外何もなかった」


藤村 「そこまで理解されてれば問題ないかと思います」


吉川 「あるよ、問題は。問題しかないよ。今のところ回答がでてないんだから。問題に問題が積み重なって最初の問題が薄まってるんだよ。なんでコストを掛けてるの!?」


藤村 「ええと、これでわからないとなると、まずどこから説明したらいいか。あの、宇宙っていうのがあるのはわかります?」


吉川 「基礎から! 宇宙の成り立ちからの説明!? 違うだろ。なんで説明が宇宙とトカゲしかないのよ。プロジェクトのことだろ?」


藤村 「ですから、宇宙のすべてを理解していただければおのずと答えはわかると思いますので」


吉川 「宇宙のすべてを!? それは人の能力でやれちゃうことなの?」


藤村 「そればっかりはリーダー次第かと」


吉川 「自分次第で? 宇宙のすべてってそういうものなの? 頑張ればいけるぞっていう志望校B判定みたいな感じ?」


藤村 「現時点のリーダーだとD判定がいいところかと」


吉川 「ダメなのかよ! 無理だよ、D判定は。いいんだよ、宇宙のすべてはわからなくて。プロジェクトのことだけわかれば」


藤村 「プロジェクトのこと以外なにもわからなくなっても大丈夫ですか?」


吉川 「大丈夫なわけないだろ! どんな廃人だよ。なんで全部わからなくなっちゃうんだよ」


藤村 「そう言われちゃうともうどこから説明したらいいのやら」


吉川 「そんな難しい判断のこと聞いてる? なんでコストがかかる方法を選んだのかということだけだよ?」


藤村 「ではまずなぜ説明が必要なのかの説明をしてもらえますか?」


吉川 「一休さんみたいなこと言い出すなよ! 説明は必要だろ! 求めたらしろよ、説明は」


藤村 「どうしても説明いります? そんなこと言ってるのリーダーだけですよ?」


吉川 「いや、空気感で封殺するなよ。問題があるといけないから私は立場上理由を知っておかなければいけないんだよ」


藤村 「参ったなぁ。まずカメレオンの舌って体長の1.5倍くらいの長さがあるんですよ」


吉川 「またトカゲ! なんなんだよ、この話は! 理由になってないだろ?」


藤村 「ですから何度も言っているように、長いものには巻かれろってことで」


吉川 「業務の闇に触れた感じがするけど、なにこれ?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る