推し
吉川 「俺も推し活をしようかなって思い始めてさ」
藤村 「推し活ねぇ。ま、好きにすればいいんじゃない?」
吉川 「なんだよ、そっけない。推しとかいないの?」
藤村 「いるよ」
吉川 「いるのかよ! やってんじゃん、推し活」
藤村 「その、推し活という言い回しがあんまり気に食わないんだよね」
吉川 「そうなの?」
藤村 「何かのキャラクター、芸能人であってもその虚構性を演じているという意味ではキャラクターとしてね、それを愛するっていうのはさ、綺麗な面ばかりじゃない。むしろ社会通念からしたら忌避されるようなある種の狂いであるわけだよ。それをデオドラントしてまるでポジティブしかないように推し活とかいうのはひどいと思うよ」
吉川 「そんなに悪いことでもないだろ」
藤村 「もちろん地に足をつけて余裕の範囲内でできるのならそれに越したことはないよ。でも『愛する』という行為は理性や判断力を麻痺させることでもある。それを律してやり続けるというのは矛盾をはらんでいるとも言える」
吉川 「他人に迷惑をかけなければいいんじゃない?」
藤村 「でも推し活をしていると他者から認識をされるってことは周りに影響を与えてるってことだろ。異物であるという認識はされるわけだ。それを迷惑と思うか思わないかはその人の捉え方だから。誰にも推しがいるなんて気づかれないようなさり気ないやり方を徹底してるならいいけど、その活動の性質上、どうしても他者にアピールしたくなる面はあると思う」
吉川 「推し活はダメってこと?」
藤村 「ダメとは言ってない。言ってみれば宗教だって推し活だ。それを完全に良いものであるかのように振る舞うのが悪い。必ずネガティブな面はある。それを理解して他人に配慮してやっていけばいいだけ」
吉川 「ちなみにお前の推しは誰なの?」
藤村 「あ、聞きたい? 俺の推しのセクシー女優」
吉川 「セクシー女優なの!? あ、いや。別に悪くはないけど」
藤村 「遠慮するな。ちょっとこいつ大丈夫かって思っただろ?」
吉川 「実はちょっと思った。でも他人の推しを否定するのもいけないから」
藤村 「気を使わせて悪いけど大丈夫だ。他人からどう思われようと自分が推してる存在だからな。そういうものだろ? 他人の顔色を伺って恥ずかしくないようになんて思ってるやつは推し活っていうファッションを嗜んでるだけなんだよ」
吉川 「そうかぁ。俺はちょっと安易に考えすぎてたかもしれない」
藤村 「セクシー女優を推すのは厳しいぞ? なんせ活動している場面がほぼほぼ他の男に抱かれてるところだから」
吉川 「それは壮絶だな。いいのか、それで?」
藤村 「だから絡みのないなんかシャワー浴びたりしてるだけの動画がどれほど救いになるか」
吉川 「あー! あれってそういう需要があったわけ!? 今更そんな薄味なものをって思っちゃってたけど」
藤村 「あれこそ福音だよ。何度命を救われたか」
吉川 「救われてるんだ。思ってた以上に推し活は大変なんだな」
藤村 「あと俺の推しはやってないけど、youtubeとかやっててくれると助かる。ただの動画が助かる」
吉川 「そんなすがるように助けを求めてるのに推してしまうんだ。悲しい生き物」
藤村 「あんなおっぱいデカいのに激辛ラーメンとか食べてるんだよ? おっぱいデカい女がやることかよ?」
吉川 「おっぱいは別にいいだろ。その考え方もちょっと侮辱的じゃないか?」
藤村 「もう自分の中で何を求めてるのかもグッチャグチャになってくるから。服を着てゲームをやってるとか、意味わからない。何が起こってるのか理解できない」
吉川 「それは理解しろよ。ゲームは普通服を着てやるものだよ。普通のことが起こってるんだよ」
藤村 「他人を推すっていうのは普通じゃいられないってことなんだよ!」
吉川 「そうかぁ? 確かに常軌を逸した情熱が必要なのはわかるけど、お前のそれは本当にそうか?」
藤村 「今日も俺の推しが押し倒されてるところを見なければ。うぅ……」
吉川 「俺、推し活やめるわ」
暗転
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