子
父 「俺がこの世を去る前に、お前に伝えなくてはならないことがある」
吉川 「父さん、そんな不吉なことを言わないでよ」
父 「お前は、俺の本当の子ではないんだ」
吉川 「え、なんだって!? 父さん……?」
父 「今まで隠していて悪かった。ただこれを打ち明けたら自分の子供でなくなってしまうのが怖くて。すまない……」
吉川 「父さん、打ち明けてくれてありがとう。でも父さんはボクの父さんだよ。それはたとえ血が繋がってなかったとしても変わらない!」
父 「こんな俺をまだ父と呼んでくれるのか?」
吉川 「当たり前じゃないか! 父さん以外にボクの父さんはいないよ!」
父 「ありがとう。肩の荷が下りた」
吉川 「今まで隠しているのも辛かったんじゃない? ボクは父さんのそんな気持ちにも気づかずに生きてきた。ボクからしたら感謝しかないよ」
父 「いや、別に隠してることはそれだけじゃないから」
吉川 「え。他にもなにかあるの?」
父 「他のは流石に。言えない話ばかりだからな」
吉川 「待ってくれよ。血が繋がってないってのはかなり重い話じゃない?」
父 「そうでもないな。ライトな話よ、ライトな。初っ端のジャブみたいなものだね」
吉川 「初っ端のジャブで来たの、実の子じゃないカミングアウトが? 続いてどんなのが待ってるの?」
父 「いや、それは本当に勘弁してくれ。話したところでお互いにいい気持ちにはならないから」
吉川 「実の子じゃない発言だって別にいい気持ちにはなってないよ!」
父 「そう? なんかわかりあえた感出てなかった?」
吉川 「出したけども! 一番重いと思ったから感を出したんだよ! まだ残弾がありますっていうなら別だよ」
父 「だって言ったら絶対怒るし」
吉川 「怒るようなことなの? それを隠してるの?」
父 「絶対怒らないって約束するならいいよ?」
吉川 「したくないなぁ。その約束はしたくない。怒られるようなことならきちんと白状して怒られろよ」
父 「じゃあもう言わない」
吉川 「言わないってなんだよ!? 隠し事はあるんだろ?」
父 「黙秘します」
吉川 「黙秘権はないんだよ、親子の会話に!」
父 「だって人間なんだから間違うことだってあるだろ? それはしょうがなくない?」
吉川 「何か間違えたの? 犯罪か? 法に触れるようなことか?」
父 「それは法律に詳しくないからわからない。カスってはいるかも」
吉川 「カスってるの!? 言ってよ! 言ってくれたら力になれるかもしれないじゃん」
父 「やだよ、恥ずかしいし」
吉川 「恥ずかしい!? この期に及んで恥ずかしいとかないだろ」
父 「親子だとしてもプライバシーはあるんで」
吉川 「もうプライバシーの問題で片付けられる感じじゃなくない? 問題を起こしてるんだろ?」
父 「どっちみち俺が死んだら色々バレるだろうから、遅かれ早かれだよ」
吉川 「バレるってなんだよ!? バラせよ! なんで親がなくなって悲しい時にドキドキハラハラのサプライズを受けなきゃいけないの?」
父 「ちょうどいいじゃん。悲しいとか言ってられない感じになるし」
吉川 「そこまで!? 怖い。なんでそんなことになってるんだよ?」
父 「それが父から子への最後の贈り物だ」
吉川 「最悪の爆弾を送るなよ! 今なら解体できるかもしれないだろ、教えてくれ」
父 「この試練を乗り越えてこそ一人前」
吉川 「いらないんだよ、試練は! なんで親父の大きな背中みたいな感じで言ってるんだろ。なんかやらかしたんだろ?」
父 「やらかしはしました」
吉川 「やらかすなよ! なんでだよ!?」
父 「なんでって言われたら、実の子じゃないし、まいっかと思っちゃって」
吉川 「おい、最悪だな! さっきのいい感じの親子感はなんだったの? もう話全部変わってきちゃうぞ」
父 「親子は親子だから。それはもうお前が認めたことだから。ちゃんと録音もしたから」
吉川 「なんのために? 怖いよ。やめてくれよ。なにがあったか話して!」
父 「やめておけ。親子で諍いなんてできない。昔から言うだろ、血は争えないって」
吉川 「繋がってねえよ!」
暗転
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