故人
藤村 「ご列席の皆様に比べると私は故人と関わった時間は短いのですが、それでも多くのことを学び、大変お世話になりました。特に印象深いのは故人が棺桶に入った姿です」
吉川 「さっきだな。今さっき見たやつだな。思い出話で来るかと思ったら直近のやつ来たな」
藤村 「生前からおしゃれな印象があったのですが、どこでどんな風にしていても華があるといいますか」
吉川 「花には囲まれてたからね。棺桶だから。それはもうみんな見てるやつ。さっきの」
藤村 「また故人にはユニークなエピソードが事欠かないのですが、つい先週会った時もアイスを食べすぎてお腹を壊したそうで『死ぬかと思った』って言ってました」
吉川 「絶対に今しちゃいけない話題じゃない? 葬式でそのエピソード言う?」
藤村 「まさに有言実行を地で行くタイプだと深く感じ入りました」
吉川 「最悪なまとめ方するな。実行したわけじゃないだろ。遺族はどんな顔すりゃいいんだよ」
藤村 「また故人は『日本を洗濯するぜよ』が口癖でして、ことあるごとにそう言っていたのを覚えています」
吉川 「聞いたことない。そんな口癖言う? それ坂本龍馬じゃない?」
藤村 「あ、そうです。それは坂本龍馬でした。まぁ、死んでるという意味では一緒なので紛らわしい部分もありますが」
吉川 「一緒!? 死んでるで一括りにしたの!? そんな大雑把な一緒ある?」
藤村 「亡くなったと言うと悲しいですけど、名にし負う偉人たちと並んだとも言えるわけです」
吉川 「そうかぁ? そんなすぐに喪失感を埋めようとしなくていいんじゃない? まだ悲しい気持ちでいても」
藤村 「今はあの世でヒトラーや、ポルポト、スターリンなどと楽しく話をしていることでしょう」
吉川 「最悪の面子! 他にいるだろ、まだマシなのが。なんでそのメンバーの中に入っちゃうの。話し合わないだろ」
藤村 「話によると故人は若い頃はブイブイいわせてたらしくて」
吉川 「いいよ! 遺族もいるんだぞ? 葬式で絶対にそんな話をするな! 若い頃のブイブイ話をしていい場なんて令和の世にはないんだよ」
藤村 「聞くところによると老いてなお盛んだったらしく」
吉川 「するな! もう何の話もするな! 若い頃も老いたあとも! 全部ダメだよ。今のところ一個も適切な話が出てきてない」
藤村 「また私はその場にいなかったのですが、もうここでは言えないようなドン引きエピソードも多数ありまして」
吉川 「今までも言えないやつだったよ! それもダメだろうけど、今までのが許されてたって思うなよ? 自分はいなかったことで安全地帯に逃げ込んでるのもズルい」
藤村 「とくに第四次おっパブ事変に関しては、ここに関係者も多いので気になる方は是非お隣の方に伺ってみてください」
吉川 「何次もするなよ! おっパブ事変を! そもそもなんだよ、おっパブ事変て!? 皆さんお馴染みみたいに言うなよ」
藤村 「また多趣味の人としても知られておりまして、陶芸、絵画、露出、乗馬など様々なジャンルで評価を得ておりました」
吉川 「一個犯罪入ってたな。サラッと紛れ込む感じで。聞き捨てならないのが入ってた」
藤村 「コレクションも多く、今では貴重な古いメディアのものから新しいものまで、中でもポルノ関連の充実っぷりは同好の者からも感嘆の声が上がったとか」
吉川 「濁せ! ポルノの部分を濁して言えばなんとなく成立するのに! 芸術とか言えばいいだろ。なんでも正直に言えばいいってわけじゃないんだよ!」
藤村 「そして最後になりますが、この場を借りて皆様に一言言いたいと思います」
吉川 「なんだよ、もう余計なこと言うなよ。しめやかな言葉で終わらせてくれ」
藤村 「このあと二次会に行く人ー? だいたいの人数だけでも」
吉川 「精進落としって言えよ!」
暗転
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