恩返し
吉川 「誰?」
鶴 「私はあの時助けていただいた鶴でございます」
吉川 「……?」
鶴 「あの時の。ほら!」
吉川 「え? 鶴? いや、鶴は知らないけど」
鶴 「ほら! 助けたじゃないですか。こっちがかなり厳しい時。マジでもう終わるかと思ってた時に!」
吉川 「それ、俺じゃないと思うんだけど」
鶴 「あなたですよ。え? 違う? なんかそう言われると不安になってきた」
吉川 「鶴を? 助けた? だって鶴なんて本物見たことないよ?」
鶴 「見たことくらいあるでしょ。鶴だよ?」
吉川 「いや、いないでしょ。都市部に現れる季節の野鳥じゃないよ、鶴は」
鶴 「あれ? 違うってことある? 確かに暗かったからあんまりよく見えなかったけど。絶対そうでしょ」
吉川 「暗かったの? 見えないんじゃない、鳥目だから」
鶴 「あんまりそういう鳥の欠点を指摘するのよくないよ。でも絶対そうだと思うんだけど。服が一緒だし」
吉川 「この服、一昨日買ったやつだけど」
鶴 「一昨日? どこで?」
吉川 「ネットで」
鶴 「えー。いくらだったの?」
吉川 「なんで聞いてくるの? 関係ないだろ、いくらかは」
鶴 「なかなかいいじゃん。そこのワンポイントが気が利いてるよね」
吉川 「雑談に持ち込もうとしてる? なんかドサクサに紛れて部屋に上がり込んでない? 恩の話終わったの?」
鶴 「服の趣味結構似てるかなぁと思って」
吉川 「恩は!? ただの鶴が雑談しに来たの?」
鶴 「じゃあ聞くけど、本当に今まで鶴を助けたことない?」
吉川 「ないよ」
鶴 「なんで助けないの? 最低の人間じゃん。普通助けるだろ。鶴は見殺しにしてもいいと思ってるの?」
吉川 「こっちが悪い感じになってる! なに? 何の話? 鶴はいないでしょ、そこら辺で」
鶴 「もしいたとして。鶴が困ってたらどうするの? 無視?」
吉川 「あの、鶴が困るって何?」
鶴 「だから駅とかで。財布失くしちゃって帰りの交通費がないんです。2000円あれば帰れるんですけど、って鶴が言ってたら?」
吉川 「飛んでけよ! 鶴なんだから。なんで公共交通機関を使って帰ろうとしてるんだよ!」
鶴 「最悪1000円でもギリでいけます。駅から徒歩になっちゃうけど」
吉川 「ディスカウントの問題じゃないんだよ! 鶴の困り方、そんなのなの? 駅前で金をせびってる寸借詐欺じゃん」
鶴 「鶴! サギじゃなくて」
吉川 「上手いこと言うなよ。そんな困り方してるやつは鶴だろうとサギだろうと無視だよ。怪しすぎる」
鶴 「ちょうど被災地に届けるための義援金を募ってるんですが協力していただけませんか? って鶴が来たら?」
吉川 「鶴なにやってるの? それは鶴の仕事じゃないだろ。鶴がやらなくてもいいんだよ」
鶴 「自分にも何かできることがないかって思って」
吉川 「鶴としてもっとやるべきことがあるだろ! 自覚を持てよ、鶴の」
鶴 「二郎系ラーメンに並んだはいいけど、食べ切れるか不安になってきちゃって。残すとすごい怒られてネットに晒されるって聞いてもう怖くて怖くて困ってたら?」
吉川 「鶴がそんなこってりしたもの食べるなよ! 木の実とか虫とか食ってろ!」
鶴 「あんまり食べるの遅くてもネットに晒されるんでしょ?」
吉川 「真に受け過ぎなんだよ! 大丈夫だよ。別に残す人だっているよ」
鶴 「本当ですか? 助かったぁ」
吉川 「この程度で助かってるの?」
鶴 「とにかくすごい不安だったから。ほら、ストレスで羽が抜けちゃってる」
吉川 「そのくらいならどこかで誰かを助けてるかもしれないけど」
鶴 「やってるってことね? 鶴、助けてるってことね? いいのね?」
吉川 「言質とるみたいに迫るなよ。怖いよ」
鶴 「それって恩だから! 自覚ないみたいだけど完全に恩! なのでしばらく世話になります」
吉川 「それ恩返しなの? 居候じゃない。ちょっと迷惑なんだけど」
もやし「ちわーす! あの時助けてもらったラーメンのもやしです!」
吉川 「全員でてけよ!」
暗転
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