本当

藤村 「エイプリルフールの面白くない嘘を見すぎて身体が拒否反応を示し始めた」


吉川 「笑いってのは内輪ウケが一番面白いんだよ。内輪ウケって文脈の塊だからさ。知ってる人間だけが楽しめるという状態は一番面白いんだから。インターネットは小さな内輪が乱立してる常態で、その内輪の中ではいつもの気の利いたやつが繰り広げられてるんだけど、エイプリルフールみたいな大きな枠組みで取り上げられちゃうとどうしてもその内輪以外の人の目に触れてしまうし、文脈を共有してない人にとっての内輪ウケって白けるものだからね」


藤村 「エイプリルフールだから面白くないわけじゃなかったのか」


吉川 「嘘をつくことを楽しむって、どうしてもある種の気を許した関係性、それこそ内輪感がないとできないものだから」


藤村 「どんな理屈であってもつまらない嘘にうんざりさせられたのは事実だから。こんな世の中だからあえて本当のことを言おう」


吉川 「急に活動家みたいなこと言い出したな。普通は本当のことを言うだろ」


藤村 「100年後にはお前は死んでる。今何をしてても、どんなに頑張っても、どれだけ我慢しても」


吉川 「嫌なことを。嫌な本当のことを言うな。確かにそうだけどそれだけじゃないだろ。後の時代に残すものだってあるだろうし」


藤村 「数億年経てばこの星だってなくなる。人類文明がいくら頑張ったって全部なくなる」


吉川 「そうだけどさ。プロセスを楽しむってこともあるわけじゃない? 自分なりの達成感とか」


藤村 「脳内の快楽物質で気持ちよくなってるだけだから、薬物でラリってるのと変わらない。どちらかというと薬物の方がお手軽」


吉川 「やめろよ! 全然違うだろ。薬物乱用を助長するようなことを言うな。人生が壊れちゃうだろ」


藤村 「正気に戻るから壊れたと認識するだけで、ずっとラリったまま死ねば逃げ切り」


吉川 「全然逃げ切ってないだろ。周りの人とかどうなるんだよ」


藤村 「世界の認識は一人称でしかないから、たとえ他人からどう思われようと周りが崩壊していようと自己の認識がハッピーならその人にとっては幸せでいられる」


吉川 「普通の常識を持った人間はそういう生き方を許せないだろ。そんな人間になりたいやつなんているか?」


藤村 「常識や通年なんて一世代変われば違ってしまうのに、そのような曖昧なものに行動を縛られるのは愚かさの極み」


吉川 「常識とかじゃなかったとしても、単純にそんな生き方してるやつに憧れないだろ」


藤村 「プロレス史上最も強いのは全盛期のジャイアント馬場」


吉川 「どうした!? 本当のことを言う流れじゃなくて? 急に違う路線に入ってる? そのまま乗り続けてたら直通運転で違う路線に入ってるの?」


藤村 「他者の目を気にして己の行動を決めることこそ無意味なものはない。決断の責任は自分以外は取れない」


吉川 「戻った? お前が言ってることが本当だったとしても、歯を食いしばって生きてる人間に対してそんな事を言うなよ。社会っていうのは共同幻想を維持することで成り立つんだから」


藤村 「素人ナンパモノにでてる女性はきちんと契約をしているのでAV女優」


吉川 「本当のことだけど! 情報に格差がありすぎない? それは本当だと思うけど、その緩急をよく淀みなく言えるね」


藤村 「居酒屋ででてくるししゃもはほとんどカペリンという別の魚」


吉川 「どうしたんだよ。真実突きつけてこっちの心を揺さぶってくる感じはどこに行ったんだよ! ししゃもが本物かどうかで取り乱すのさなかクンしかいないよ!」


藤村 「嫌なやつを殺すのと、関係ないやつを殺すのでは、情状酌量の余地があるために嫌なやつを殺したほうが刑が軽くなる可能性がある」


吉川 「どっちにしろ殺しちゃダメだろ。本当とかの問題じゃない。本当かどうかの前にいいかわるいかの判断があるだろ」


藤村 「桃の美味さだけはガチ」


吉川 「それはガチ!」



暗転

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