ビヨンセ

吉川 「ビヨンセが突発的にサイン会を開いたらしいんだよ」


藤村 「あー、ネットで見たわ」


吉川 「行きたかったなぁ。生でビヨンセを見れることなんてありうるんだ」


藤村 「そんなにすごい人なの?」


吉川 「ビヨンセだよ!? 知らない?」


藤村 「名前くらいは聞いたことある。歌手でしょ」


吉川 「なんていうかな、女神っているじゃない? ギリシア神話とかの」


藤村 「アテナとか?」


吉川 「そうそう。その女神とかのランクに入れてもまあまあ上位にいくくらいの存在」


藤村 「女神のランクで? 人でしょ?」


吉川 「現実の人間だけど、格からしたらすでにそんじょそこらの女神より上になってるから」


藤村 「そんなすごい人に生で会えるってすごいな」


吉川 「だろ? いや、想像したらさ、怖いよ。実際に目の前で会うこと考えたらおかしくなるかもしれない。オーラに当てられて正気じゃいられないと思う」


藤村 「じゃ練習しておく?」


吉川 「練習?」


藤村 「ほら、一度あったんだから今度またあるかもしれないじゃん? その時に正気を保てるようにさ」


吉川 「漫才の導入みたいなこと言い出すな。本当にやるの? 練習を?」


藤村 「こちらで整理券を配布しておりまーす!」


吉川 「あ、始まってるんだ。まだ感情がノッてきてないんだけど。じゃあ並ぶか」


藤村 「申し訳ございません! こちら、手前の方が最後で。ここまでとなります」


吉川 「なんでだよっ! 整理券間に合ってないじゃん!」


藤村 「すみません。先着150名までですので」


吉川 「違うだろ。ビヨンセに会う練習じゃないの? 整理券の配布に間に合わなかった時の練習はいらないよ。してどうするんだよ。悲しみに慣れろってこと?」


藤村 「そう言われましても、ビヨンセ様がここまでって言ってるので」


吉川 「ビヨンセが直で列をさばいてないだろ。違うよ、この練習はいらないよ! ビヨンセに会う練習をさせろよ。整理券は確保させろよ。そこから先の練習だろ!」


藤村 「お兄さん、整理券どうしても欲しいかい?」


吉川 「誰だよ!? 急にいかつい人でてくるなよ! 何の練習だよ」


藤村 「2万だけど、出せる?」


吉川 「昭和のダフ屋みたいなことするなよ! もう最近は転売ヤーが横行しててこんな旧式のダフ屋は絶滅してるだろ!」


藤村 「もうこんな機会はないのにな。他の人を当たるか」


吉川 「わかったよ。手に入れるから。そこから先の練習をさせてくれ。話を進めろよ!」


藤村 「えーん、えーん。私ビヨンセの大ファンの9歳です。せっかく並んだのに間に合わなかったー。えーん、えーん」


吉川 「ビヨンセを出せよ! 導入が長いんだよ。9歳の少女との練習いらないだろ!」


藤村 「ずっとビヨンセが好きだったのに。間に合わないだなんて死んじゃうー。誰か親切な人が変わってくれればいいのに。えーん、えーん」


吉川 「情にほだそうとするなよ! だいたい好きって言ってもたかだか数年だろ! こっちは20年以上なんだよ!」


藤村 「胎教からだから10年いってますー」


吉川 「意識はないだろ!」


藤村 「えぐっ、えぐっ、一生の思い出なのに……」


吉川 「こっちだってそうだよ! このやりとりいらないんだよ! 人の心を試そうとするやりとりはビヨンセと関係ないだろ! 何を乗り越えさせようとしてるんだよ!」


藤村 「ハーイ! アイ・アム・ビヨンセ」


吉川 「うわー、やっとビヨンセだ。そんな挨拶は絶対にしないだろうけど。やっと本番だよ」


藤村 「ナウ・オン・セール!」


吉川 「ビヨンセの引き出しが少なすぎて全然その気にならない。感情が一ミリも盛り上がってこない。こんな練習何百回やっても無意味だろ」


藤村 「アナタハ小サイ子ヲ無視シマシタ。ナノデさいんノ代ワリニ、コノ糞ノ詰マッタつづらヲ持ッテ帰リナサイ」


吉川 「昔話の終わり方!」



暗転

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