混入

吉川 「これを見ろよ! どう見てもプラスチック片だろ?」


藤村 「えーと、そうですね」


吉川 「なんでこんなものが混入してるの? 管理はどうなってるんだ?」


藤村 「管理に関しては細心の注意をして行っているのですが」


吉川 「じゃあなんでこんなものが入ってるんだよ!? どう考えても製造過程で混入してるだろ?」


藤村 「はい。混入しました」


吉川 「なんだよ、混入しましたって。認めるんだな?」


藤村 「はい。それで、なにをそこまで怒ってらっしゃるのかわからないんですが」


吉川 「わからないの? プラスチック! 入ってたの!」


藤村 「はい」


吉川 「はい、じゃないよ! なにキョトンとした顔してるの? 普通大人がそんなキョトンとした顔にならないよ?」


藤村 「いいえ。キョトンとはしてません」


吉川 「してるだろうが。このプラスチック片が入ってたことは認めるんだよね」


藤村 「確かに入ってますね」


吉川 「ますね、じゃなくて。ダメだろ?」


藤村 「どうしてですか?」


吉川 「どうして!? え、そこから? 食品にプラスチック片が入っててダメな説明がいる?」


藤村 「あぁ、普通のプラスチックなら問題になるかもしれませんが、これは希少部位なんですが」


吉川 「希少部位!? え、なんの?」


藤村 「プラスチックの」


吉川 「何言ってるんだよ! プラスチックの希少部位なんてないだろ」


藤村 「このプラスチック片はガンプラ100体作ってもわずかしか取れない希少部位ですね」


吉川 「いや、希少部位とかそういう問題じゃねえよ」


藤村 「非常に珍しいですよ」


吉川 「そりゃ珍しいだろうよ! 異物混入は。そんなに毎回入ってたら商品にならない」


藤村 「そうなんです。こちらとしてもすべてのお客様に提供したいところなのですが、なにぶん数が限られておりますので」


吉川 「提供したいの? なんで?」


藤村 「希少部位なんで」


吉川 「希少部位だから何なんだよ! プラスチックだろ?」


藤村 「はい」


吉川 「なんでありがたい感じで言ってるんだよ!」


藤村 「いえ、でもお肉の希少部位もそうじゃないですか? 希少部位だから美味いと限ったわけではないのに、希少であるというそのことを皆さん喜ぶじゃないですか」


吉川 「そりゃ肉はいいよ! 食えるもん」


藤村 「食べられるか食べられないかはお客様次第なんで」


吉川 「次第じゃないだろ! 食べられないものだろ、プラスチックなんて」


藤村 「でも中には石とか鉄とか食べる人もいますし」


吉川 「ビックリ人間じゃねえか! そんな人間のポテンシャルの極限みたいなやつを持ち出して人それぞれみたいに言うなよ」


藤村 「その気になれば食べられないこともないですよ」


吉川 「その気にならないだろ! プラスチックを! 消化できないし」


藤村 「それを言ったら食物繊維も消化できないものですから」


吉川 「健康っぽくいうなよ。プラスチックは食べない! 一般的な人間は」


藤村 「そうですね。私どもとしてはお客様の好き嫌いにまで立ち入る権利はありませんから」


吉川 「好き嫌いじゃねえんだよ! 常識なんだよ」


藤村 「お肉の希少部位も、すべての人が大好物ではないじゃないですか」


吉川 「すり替えるなよ、お肉に! お肉はいいんだよ、お肉として買ってる中の希少部位だから。プラスチック片はプラスチック片を欲しいと思って買ってないだろ!」


藤村 「魚だって骨が欲しくて買ってる人は少ないんじゃないですか?」


吉川 「やり込めるなよ! どう考えてもこっちの方が正しいだろ。なんで議論の上手さで乗り切ろうとしてるんだよ」


藤村 「無理なら食べずに残していただければ。それはお客様の判断ですので」


吉川 「そういう問題じゃない! お前じゃ話にならないよ。責任者呼んでこい!」


笹咲 「お客様、いかがなされました?」


吉川 「あんた責任者か? なんなんだこの店員は?」


笹咲 「藤村ですか? クレーム担当の希少な人材なんです」


吉川 「希少! 希少ならいいってわけじゃないだろ! なんでこんなやつにクレーム担当任せてるんだよ」


笹咲 「食えないやつなんで」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る