言いにくいこと

藤村 「それで吉川さんには言いにくいことをズバッと言ってもらってですね、コメントを締めてもらおうと思います」


吉川 「言いにくいこと?」


藤村 「はい。ズバッと言ってもらって」


吉川 「いや、別に自分はそんなキャラじゃないんですけど」


藤村 「あー、はいはい。でもあれなんですよ。言いにくいことをズバッと言うのが一番人気出るんで」


吉川 「そう言われても」


藤村 「番組の制作上、やっぱりそういう言いにくいことをズバッと言ってくれる人がいないとまとまらないんですよね」


吉川 「それはそういうのが得意な人がやればいいんじゃないですか?」


藤村 「ですから、ここは吉川さんにひとつ!」


吉川 「だから全然そういうタイプじゃないんですよ。なんて言えばいいか思いつかないし」


藤村 「考えた中で一番言いにくいことを言ってもらえれば」


吉川 「なにそれ? 言いにくいことは言っちゃダメでしょ」


藤村 「それを言っていただくのがエンタメなんで」


吉川 「そもそも思いつきもしないんですよ。言いにくいことなんて。具体的にはなんて言えばいいんですか?」


藤村 「もう適当に言いにくいことをズバッと言ってくれれば」


吉川 「適当に? なんだよ、適当にって」


藤村 「ノリでいいんで。流れ的に言いにくいことをズバッと言ってもらって」


吉川 「何言ってるんだよ! 流れでそういうことを迂闊に言ってはダメだろ」


藤村 「いや、もうこちらとしては言いにくいことをズバッと言ってくれればまとまるんで」


吉川 「まとまるとかじゃないよ。言いにくいことを言うのはさ、そもそもその本質を掴んでないと言えないだろ」


藤村 「あーもう、そういう本質とかはどうでもいいんで。とにかく言いにくいことをズバッと言ってもらえれば」


吉川 「本質こそが大事だろ! 本質を外してただ言いにくいこと言うのは一番たちが悪いよ」


藤村 「あの、見てる人はあんまりそういうのわからないんで。言いにくいことを言ってるなってことだけ伝わればいいんで」


吉川 「そんなわけないだろ! 視聴者をバカにし過ぎだよ」


藤村 「でしたら最初は言いやすいことから言い始めて徐々に言いにくいことにしていってもいいんで」


吉川 「なんだよ、その言いやすいことって! 逆ならあるわけじゃないんだよ。具体的になんなんだよ」


藤村 「最終的に言いにくいことをズバッと言ってもらえれば」


吉川 「だからわからないんだよ! 何も言えないよ、言いにくいことなんて」


藤村 「だったらもう放送禁止用語でも言ってもらって」


吉川 「そういうこと? 言いにくいことって」


藤村 「いえ、本当はダメなんですけど。どうしても言いにくいことがなかったら、とりあえず放送禁止用語って言いにくいじゃないですか?」


吉川 「だから言っちゃダメだろ。なんで言わせようとしてるんだよ」


藤村 「あるならそっちで」


吉川 「ないよ! 言いにくいことなんてないよ!」


藤村 「そのないことを言うのがコメンテーターの腕の見せ所なんで。ほら、コメンテーターの言うことって全部その場しのぎじゃないですか?」


吉川 「そんなことないよ! 失敬だなキミは! そう思ってるわけ?」


藤村 「いえ、ですからあればあるで。視聴者の方ってそういうのを待ち望んでるんですよ。言いにくいことも言えないこの世の中じゃ」


吉川 「言いにくいことは言わなくていいんだよ。なんでそれを無理やり言わそうとしてるんだよ!」


藤村 「それがエンタメですから」


吉川 「だったらせめてなんの話題なのか事前に教えておいてくれよ。そうしたら考えるから」


藤村 「あ、はい。最初のトピックはバスガス爆発のやつです」


吉川 「言いにくいな!」



暗転

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