元気づけ

吉川 「一体どこに連れてくつもりなんだよ。こっちだって暇じゃねえんだよ」


藤村 「お前ここんところ落ち込んでただろ」


吉川 「まぁな。だからなんだよ?」


藤村 「だからさ、元気づけてあげようと思って」


吉川 「藤村……」


藤村 「ほら、着いた」


吉川 「え? ここってホテル? 結構高そう」


藤村 「大丈夫大丈夫。いいから入れよ」


吉川 「藤村、ありがとう。ちょっと最近嫌なことが続いてさ」


藤村 「ほら、ここだ。ちょうど俺の友達が結婚式やってるんだ」


吉川 「え、どういうこと?」


藤村 「落ち込んでるみたいだから、美味いもんでも食ってさ、楽しい思い出作ろうぜ」


吉川 「待ってくれよ。友だちの結婚式?」


藤村 「そう」


吉川 「え、誰の?」


藤村 「笹咲。知らないと思うけど」


吉川 「知らない。じゃあなんで連れてきたの?」


藤村 「落ち込んでるからさ」


吉川 「いや、落ち込んでるからって友だちの結婚式に連れてこないだろ」


藤村 「気にしなくていいよ。みんな気の良い奴らだから」


吉川 「そういう問題じゃないよ。知らないやつがいきなり結婚式に来られても困るだろ」


藤村 「その点なら大丈夫。前もってちゃんと聞いてあるから」


吉川 「そうなの? いいの? 俺が行くって?」


藤村 「当日サプライズがあるけどいいかって聞いたら、すごい喜んでたよ」


吉川 「そんな濁した聞き方するなよ! 絶対変な勘違いされてるじゃん」


藤村 「でも気のいいやつだから」


吉川 「気の良さでカバーできる領域を超えてるよ!」


藤村 「ぁん? それはなにか? 俺の友達が気が良くないって言ってるのか?」


吉川 「そうじゃないよ! なんでキレ気味なんだよ。今そっちにキレる権利ないだろ」


藤村 「サプライズなんだからお前は普通に楽しんでればいいんだよ」


吉川 「無理だろ。向こうは結婚式のサプライズって聞いて知らないちょっと落ち込んだ人が飲み食いしに来るとは思わないよ」


藤村 「思わないからこそサプライズになるんじゃん」


吉川 「結婚する人の身になって考えろよ! なんか怖いだろ、そんなの」


藤村 「幸せな席なんだから。お前もちょっとくらい分けてもらえばいいだろ」


吉川 「あんまりそんな関係ない人に幸せを分けた話聞いたことないよ! ある程度見知った親族とかで分け合うものだろ」


藤村 「俺はお前を元気づけようと思ってだな!」


吉川 「その気持ちは嬉しいよ? でも他人の結婚式につれてくるってアイデアに疑問はなかったの?」


藤村 「ちょうどタイミングが良かったし、なんなら一番幸せな催しだろ」


吉川 「幸せなのは結婚する二人なんだよ! 集まった人はその二人の幸せを祝う立場なんだから。全然知らない人もついでに祝おうって思ってないだろ」


藤村 「じゃあこうするか? 新郎と新婦の間に椅子置いてもらって、そこに入れば自動的にお前を祝う感じになるだろ?」


吉川 「地獄の晒し台かよ! どんな悪業を行ったらそんなポジションに座らされるんだよ。式場にいる全員が困惑するだろ」


藤村 「でも結婚式って意外と新郎新婦ばっかり見てるわけじゃないし」


吉川 「間に知らない人がいたら見るよ! そんな異常事態になったら見ちゃう。退屈だと思ってる人も見るよ!」


藤村 「だったら最初にスピーチさせてもらってお前が誰だか説明すればあとは気にならないだろ」


吉川 「関係ない人がスピーチを? 俺は俺でなんて言えばいいんだよ!? 関係ないけど最近ろくなことがないから来ちゃいましたって挨拶するの?」


藤村 「なんだ、関係ない人か。って分かれば来てる人も安心するから」


吉川 「安心できないよ? 関係ない人がずっといる式は安心とは程遠いよ? しなくていい緊張を強いられるだろ」


藤村 「でもサプライズって言っちゃったから」


吉川 「こんなサプライズならない方がマシ! 絶対にやらない方がいい!」


藤村 「ほら、落ち込んでるから考え方がどうしてもネガティブになってるんだよ」


吉川 「この状況をどうポジティブに受け止めればいいんだよ!?」



暗転

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