スローライフ

吉川 「藤村に影響されて最近スローライフゲームをやってるんだよ」


藤村 「あれか? なんか農業とかするやつ?」


吉川 「そうそう。農業もあるし牧場とかもやってる」


藤村 「わざわざゲームで? 本当に園芸とかやればいいのに。俺も農業にこんなにハマるとは思わなかったよ」


吉川 「実際にやらないからこその気楽さってのはあるよ。あと現実だと時間もかかるし」


藤村 「別にずっとつきっきりってわけじゃないけどな。菜園とか楽しいぞ?」


吉川 「確かにゲームを通してだけど興味が湧いてきてる」


藤村 「だったらゲームも悪くないな。今度手伝いに来てよ。金は出せないけど美味いものは食わせる。それは保証する」


吉川 「いいね。ただ、ゲームだとスローライフもやることが多くてさ。もう忙しくて忙しくてストレスでハゲそうになる」


藤村 「スローライフじゃないんかーい!」


吉川 「ものすごい全力でツッコんでくれるじゃん」


藤村 「スローライフでのんびりリラックスを味わうためにやってるのに、攻略を急ぐあまりに効率重視の動きばっかりして気が休まらないのかーい!」


吉川 「そんなきちんと説明して打てば響くようなナイスなリアクションしてくれるとは思わなかった」


藤村 「よかった?」


吉川 「よかった」


藤村 「それはなによりだよ」


吉川 「ただ現実でやると泥で汚れたり虫とか出たりして大変そうだなぁとは思う」


藤村 「虫なんかよりも周りの人間の方がずっと大変ちゃうんかーい!」


吉川 「あ、そうなの? そういうのは知らないけど」


藤村 「あれ、ツッコミ間違った?」


吉川 「いや、合ってるかどうかわからない。知らないから」


藤村 「隣の畑の気の狂ったジジイが勝手に『これじゃ上手く育たないよ』とか言ってせっかく出てきた芽をむしり取って変な粉まぶしに来たりするし、ネットで調べた画期的なやり方を試そうと思ったら変な鎌を持って奇声を上げながら迫ってくるし最悪なんじゃないんかーい!」


吉川 「そ、そうなんだ。すごい大変そう」


藤村 「あと口もすごい臭いんかーい!」


吉川 「まぁ、それはしょうがないんじゃないかな。でも農薬なんかは周囲一帯でやらないと意味がないって聞いたよ? 無農薬の畑があるとそこから虫が来るから迷惑って」


藤村 「本当に殺したいのは虫じゃなくて人間なんじゃないんかーい!」


吉川 「え、なに? どういうこと?」


藤村 「結局ストレスの元になるのって人間だから! スローライフに憧れるのだって都会の人間関係に疲れた人間が逃避しようと思ってるだけ。でも実際の田舎の人間関係は醜悪を煮詰めたようなクソみたいなものだし、老人は人の話は聞かねえし、なんか臭ぇし、若い者に反対することこそ生き甲斐だと思い込んでるクソ・オブ・クソの掃き溜めだから! 殺すのならまず人間。特に隣のキチガイジジイじゃないんかーい!」


吉川 「いや、それは違うと思う」


藤村 「違わないやろー! あいつら全員殺して村を焼きたいちゃうんかーい!」


吉川 「そんな風に思ってる人いないよ」


藤村 「あいつらが生きながらえてる理由なんて、たまたま俺が散弾銃を持ってないからだけじゃないんかーい! 手元にあったら確実に蜂の巣! 家族もなんか気持ち悪いし全殺し! 家も焼くんちゃうんかーい!」


吉川 「どうした? 疲れてるんじゃないか? 病院とかで一度カウンセリング受けたほうがよくない?」


藤村 「あぁ? お前もひょっとしてジジイの息がかかってるのか? あの臭い」


吉川 「かかってないよ。知らないよ、そのおじいさんの存在は」


藤村 「急に農業の話なんて振ってきて。怪しいと思ってたんだ! どうせ田舎で泥にまみれてる俺をみんなで嘲笑ってるんだろ! ヒルズでドンペリ飲みながらロレックスでカイエンなんだろ!」


吉川 「もう何言ってるかもわからない。そんなに大変ならちょっと休んで戻ってきたら?」


藤村 「戻るところなんてあるかーい! こちとらもう引き返せない所まで来てるんだ。地獄への直行便出発進行! お乗り遅れのないようにー!」


吉川 「もうスローライフゲームやめよう……」



暗転

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