お礼

吉川 「この間お世話になったから。お礼と言ったらなんだけど」


藤村 「え、本当? なんかかえって悪いな。でもありがたく頂戴します」


吉川 「本当に助かったから」


藤村 「なんだろ? ひょっとしてマンション?」


吉川 「マンション!? そんな高いもんじゃないよ。常識で考えてよ」


藤村 「だよね、それはね。さすがにね。お世話になった量に見合わないもんな」


吉川 「そんなことはないよ。ただマンションあげないでしょ? プレゼントで。バブル時代なの?」


藤村 「わかってるわかってる。そこまでお世話になったとは思ってないんだもんね」


吉川 「思ってなくはないよ。感謝はしてるって」


藤村 「あ、でもこれアレかな? ひょっとしてさ。車?」


吉川 「そんなわけないだろ。車をプレゼントって、フレンドパークでもダーツの一番小さい枠だぞ?」


藤村 「違う違う! 高級車じゃなくて一般向け大衆車クラスの?」


吉川 「車じゃないよ! あげないでしょ、車は。大衆車だったらありうるなって考え方自体しないよ」


藤村 「そこまでお世話になったわけではないってことね」


吉川 「え、なんか高く見積もり過ぎじゃない? 確かにお世話になったと思ってるけど。マンションとか車?」


藤村 「形だけでも感謝してるって風にしておくか。っていう感じなのかな」


吉川 「嫌な言い方するな。感謝は本当にしてるからこうしてお礼をしてるのに」


藤村 「いいんだよ。いいよ。本当に。お礼を目的にやったことじゃないわけだし」


吉川 「だったらお礼のハードルを勝手にあげないでくれよ」


藤村 「そんなつもりはなかったんだけど、嬉しくてちょっと期待しちゃって」


吉川 「そんなたいしたものじゃないからさ」


藤村 「それは俺への感謝はたいしたことないって意味で?」


吉川 「なんでそうとるかな。感謝はすごくしてる。でもお礼は申し訳ないけどもそこまで用意できなかったから」


藤村 「用意できなかったの? なんで?」


吉川 「お。詰めるなぁ。そんなに詰めてくるところ?」


藤村 「俺は結構用意したんだよね。無理して。やらなくてもよかったのに」


吉川 「だから感謝してるって。そんな勢いで要求してくると思ってなかった」


藤村 「要求してるわけじゃないけど。その程度だって思われてるんならやるんじゃなかったって気分」


吉川 「まずさ、感謝してるっていうのを伝えたい。これ伝わってる? ありがたく思ってます。本当に」


藤村 「うん。わかった」


吉川 「それとは別に、見返りというわけではなくお礼をあげたいと思ったんだよ」


藤村 「なるほど。別なわけね」


吉川 「そうそう。感謝は感謝。お礼はあくまでお礼」


藤村 「なんだろ~? 馬かな? 競走馬。馬主になれるのかな」


吉川 「デカいな! 億単位のお礼を想定してる?」


藤村 「あぁ、億はいきすぎか」


吉川 「いや、億はいきすぎだし、なんだったら万もいきすぎてない? ちょっとしたお礼なわけだから」


藤村 「ちょっとしたね。ゴミみたいな。カスみたいな。もうない方がマシなくらいの」


吉川 「そんな悪くはないよ! 極端すぎる。ほら、甘い物好きじゃない?」


藤村 「え!? サトウキビ農場?」


吉川 「もらわないだろ、農場を。贈与税とかかかるし」


藤村 「それをいったらマンションだって贈与税かかるよ」


吉川 「うん。だからマンションじゃないよ。なに? 贈与税がかかるラインを想定してる? そこまでじゃないよ?」


藤村 「そかそか。普通の貰って困るようなレベルのお礼ってこと?」


吉川 「貰って困るかどうかはわからないけどさ。過度に期待されてもそういうものじゃないから」


藤村 「もういい? 開けちゃっていい?」


吉川 「うん。いいよ。なんだったら事前に予想とかしないで最初からスッと開けて欲しかったくらい」


藤村 「わぁ。これは……」


吉川 「うん」


藤村 「あぁ。なるほどね」


吉川 「ま、お礼って言っちゃなんだけども」


藤村 「はぁ。これか」


吉川 「おやつとしてちょっと食べてもらえばいいかなぁって思って。もちろん感謝はとてもしてるし、今後も長く付き合っていく意味合いで形式的ではあるけどちょっとした気持ちみたいなものだから。また今度一緒に御飯とかも食べたいし」


藤村 「そんなにゴチャゴチャ言ってくるならいらねえよ!」


吉川 「それはこっちのセリフだよ!」



暗転

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