転生

国王 「そなたがおかしな妄言を吹聴して市井を混乱に陥れた者でヤンスか」


吉川 「だから言ってるじゃないですか! 俺は気づいたらこの世界に転生していただけで!」


国王 「ならば聞くでヤンス! お前の世界とこの世界、一体どれほどの違いがあるでヤンス!?」


吉川 「それなんだよなぁ。王様でしょ? 王様はヤンスって言わないよ」


国王 「そんなの言いがかりでヤンス!」


吉川 「いや、だって実際そうだったんだもん。ヤンスって語尾につく王様一人もいないよ? 下っ端の語尾だもん。どういう感情でそれ言ってるの?」


国王 「感情とかそんなこと考えたことなかったでヤンス」


吉川 「大体この世界の感覚ってのはつかめましたよ。ま、確かに技術的には元の世界ほどじゃないけど、道徳なんかは割と近い。でも王様のヤンスが一番引っかかる」


国王 「遅れてるってこと?」


吉川 「遅れてるとかでもないんだよ。言わないんだよ、そんな感じじゃ。もうイメージが違っちゃうから」


国王 「一応ほら、後宮で妃と二人きりの時はもうちょっと甘えた感じになるでヤンスよ?」


吉川 「それは知らないよ。勝手にやってくれよ」


国王 「ダサいってこと?」


吉川 「ダサいとかでもないんだよ。なんでダサいが通じるのに語尾のヤンスのニュアンスは伝わらないんだよ。よっぽどダサいの方が限定的な言い方だろ」


国王 「だってそんな、国王失格みたいに言うでヤンスから」


吉川 「この国ではそれでいいんでしょうから、俺が何言っても別に気にしなくていいじゃないですか」


国王 「気になるでヤンス! あっしはもう夜も眠れないでヤンス」


吉川 「あっしって言った? 一人称があっしなの? 王様の?」


国王 「あー、それもダメ? なにが? 悪い感じになっちゃうの?」


吉川 「悪いってのも違って。下っ端感が出ちゃうんだよ」


国王 「ずっとこれでやってきたんでヤンスけど。父も。祖父も」


吉川 「うん、だからもうそれはそれでいいんじゃないですか?」


国王 「いやいや、待つでヤンス! あれでしょ? 今後もお前みたいな転生してきたやつが来たら、ヤンスにちょっとクスクス笑っちゃうんでやんしょ?」


吉川 「俺と同じところから来たなら、違和感は感じるでしょうね」


国王 「それは嫌でヤンス! 誰にでも威厳を持ちたいでヤンス!」


吉川 「別にそんな人滅多に来ないでしょ」


国王 「ちなみにそっちの王様はなんて言ってるんでヤンスか?」


吉川 「俺のところは王様とかいないから」


国王 「だったらなんでヤンスって言わないって断言できるでヤンス!? いないなら言ってるかもしれないでヤンス!」


吉川 「いや、絶対言ってないと思う。いたとしても。それはもう間違いない」


国王 「そんなに変ってこと?」


吉川 「ま、変は変です」


国王 「あと他には? 変なところある? 王冠とか大丈夫? 色使いとか」


吉川 「それは多分大丈夫だと思います。結構立派で」


国王 「ヤンスだって立派でヤンス!」


吉川 「ヤンスは明らかに立派ではないです」


国王 「わからないでヤンス! ラインが難しすぎるでヤンス」


吉川 「まぁ、俺のところも裸の王様とか王様の耳はロバの耳とか変な寓話もあるんで」


国王 「そんな無茶苦茶なところから来たやつに笑われるの一番腹立つでヤンス!」


吉川 「確かに。それに比べたらヤンスくらいは許容範囲かもしれない」


国王 「そうだ。この国にはあの魔王が支配の手を伸ばしてきているでヤンス。まずはその問題を解決しなければ。転生者というお前なら何かできるのではないでヤンスか?」


吉川 「やっぱりそういう世界観なのか」


魔王 「フハハハ! か弱き人間どもよ、無駄な抵抗はやめて大人しく従うでゲス!」


吉川 「魔王の語尾もゲス!?」



暗転

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