書店

藤村 「ちょっとこれ、書いてあることが間違ってるんですけど?」


吉川 「左様でございますか。ただこちらは書店ですので、内容に関するお問い合わせは出版社の方にお願いできますか?」


藤村 「でもさ、ここで買ったんだよ?」


吉川 「そうですね。でも内容に関してすべての書籍を把握しているわけでもありませんので」


藤村 「レシートだってあるんだよ?」


吉川 「確かに当店のものでございます。ただ内容に関することは当店としても関与できませんので」


藤村 「でもさ、売った責任ていうのもない? 書いてある内容が間違ってるんだよ?」


吉川 「はぁ、書籍として落丁や乱丁があるようでしたら返品交換というのもできますが、内容に関しては」


藤村 「あんたじゃ話にならないよ。もっと偉い人出してよ」


吉川 「私が当店の店長なのですが」


藤村 「だったらわかるでしょ? なんで嘘を書いてある本を売ってるの?」


吉川 「いえ、私どもとしても嘘を書いてある本を売ってるわけではなくてですね、確かにそういった内容のものもあるかもしれませんがあくまでその書籍という形を販売するという店ですので」


藤村 「嘘を書いてある本で金を稼いでるんだろ? 販売した責任もあるんじゃねえの?」


吉川 「ですからそういうのは出版社の方にですね。ちなみにどちらの出版社の何と言う書籍なのでしょうか?」


藤村 「あん? 別にいいだろ、そんなの!」


吉川 「いえ、もしよろしければ出版社の問い合わせ窓口の方をご案内させてもらいますので」


藤村 「俺はね、嘘を書いてる本を買わされたことにムカついてるんだよ! わかる?」


吉川 「ですから、内容に関しては出版社の方に問い合わせて欲しいので。一体何という書籍ですか?」


藤村 「は? 関係あんの?」


吉川 「いや、関係はあるでしょ。事実でないことを書かれていると仰ってるんですから」


藤村 「『絶対ヤレるマッチングアプリ攻略マニュアル~無課金でもズッコンバッコン放題~』だけど?」


吉川 「……なるほど」


藤村 「書いてあることが虚偽なんだよ」


吉川 「それは、無課金でもズッコンバッコン放題ではなかったということですか?」


藤村 「そうだよ」


吉川 「そうですかぁ。それは本当にあなたはマニュアル通りにやった上でズッコンバッコン放題じゃなかったんですね?」


藤村 「だからそう言ってんだろ!」


吉川 「そーですかー。でもどこかで見落としがないかちゃんと検証してみないと嘘かどうかはわかりませんね?」


藤村 「もういい!」


吉川 「と言いますと?」


藤村 「もういいって言ってるだろ! わかったよ。出版社の方に言うわ」


吉川 「いえいえ。当店としてもその書籍を販売した責任というのがありますので、ズッコンバッコン放題になるかどうかきちんと調べませんと」


藤村 「いいってさ。こっちがいいって言ってるんだから」


吉川 「いえいえ。こっちはいいって言ってませんので。しっかりと調べさせてもらいます」


藤村 「いいよ。わかった。ごめんて」


吉川 「いやいや、ごめんではなく。ズッコンバッコン放題になりたいんじゃないんですか?」


藤村 「もうそれもいい。なりたくなくなった」


吉川 「そんなことはないでしょ。この書籍を購入するというお方の意志がそれほど薄弱なはずはない! ズッコンバッコン放題になれるかどうか、検証しなければ」


藤村 「ホント、ごめんて。仕事の手止めて悪かったよ」


吉川 「別にこちらは謝らせたいわけじゃないので。お客様に満足していただくことが当店としても一番ですから」


藤村 「あ、もうわかった。じゃあその、この本ください。これで勘弁して」


吉川 「こちらの本をお買い上げでよろしいですか?」


藤村 「はい、いいです」


吉川 「こちらの『絶対稼げるVチューバー入門~バ美肉転生でスパチャ錬金術~』でよろしいですか?」


藤村 「え、何この本? このコーナーこういう本ばっかり?」


吉川 「もしこちらもご不満がございましたら当店の方にご一報ください」



暗転

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